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■酪農を救う!!ウシの繁殖改善に新たな可能性

2023-05-18 15:43 | 前の記事 | 次の記事

結果1:給餌管理、飼養形態により子宮細菌叢の形成は異なる。結果2:低受胎になると子宮内細菌叢において悪玉菌群が優勢となる。

岡山大学 内山淳平先生らの研究グループによる研究成果が、2023年4月26日、米国微生物学会の「Microbiology Spectrum」に掲載された。ウシの子宮内細菌叢と受胎との関連性を見出した。

この研究成果は、ウシの低受胎を早期診断できる技術を開発できる可能性があり、受胎性の改善に向けた飼養管理方法の提案など、酪農の繁殖における諸問題の解決が期待される。

§現状

卵巣・子宮に異常がなく、発情周期も正常であるにも関わらず、人工授精を3回以上繰り返しても受胎しないウシ(以下、リピートブリーダー)は、分娩間隔の延長をきたし、1日700円/頭もの経済的損失を酪農家に与えている。リピートブリーダーの占める割合は5~24%とされており、我が国では対策が求められている。

リピートブリーダーの中には子宮に異常が認められないにもかかわらず、低受胎となるウシが数多く存在する。しかしながら、これらのウシは子宮内膜炎などの検査可能な臨床的な異常を検出しているだけであって、本当に子宮に異常がないかは不明。近年、解析技術の進歩により、これまで無菌とされてきた子宮において子宮内細菌叢の存在が明らかにされ、低受胎の新たな原因として注目されている。ヒトにおいては、臨床上、子宮に異常が認められない不妊患者でも子宮内細菌叢の変化が不妊の原因と成り得ることが示され、子宮内細菌叢検査が不妊治療に実用化され始めている。一方、ウシにおいては、議論はされているものの、子宮内細菌叢と受胎性の関連性に関しては十分な研究が進められていない。子宮内細菌叢検査の有用性がウシにおいても示されればリピートブリーダー対策の一助となると考え、研究を行った。

§結果1 農場の飼養管理で子宮内細菌叢が変動する

飼養管理が異なる4つの農場のウシ計69頭の子宮内細菌叢の解析を行った。農場、給与飼料、飼育方法に関して子宮内細菌叢の相違を検討した。その結果、農場、給与飼料、飼育環境が子宮内細菌叢に影響を与えていることが明らかとなった。

§結果2 子宮内細菌叢と低受胎の関連性

1つの農場における31頭を対象に子宮内細菌叢と低受胎の関連性を解析した。はじめに、人工授精の回数に関して細菌種の存在量解析を行った。その結果、特定の細菌(Arcobacter菌)が低受胎との関連性を見出すことができた。加えて、共起ネットワーク分析(細菌同士の協力体制を見出す解析)を行い、低受胎に関連する細菌間の正と負の関係性を見出した。これらの結果から、NG農場において低受胎に関連する細菌群の検出ができた。

§社会的な意義

今回の研究成果により、低受胎に関連したウシの子宮内細菌叢解析を行い、低受胎のウシの診断に向けた新たなアプローチ方法として期待される子宮マイクロバイオーム検査の基礎データが得られた。今後、新たな早期診断技術や対策を提供できるように研究開発を進めていく。

§研究グループ

  • 八木沢拓也先生 NOSAI北海道 係長
  • 内山淳平先生 岡山大学学術研究院医歯薬学域 准教授
  • 市居 修先生 北海道大学大学院獣医学研究院 准教授
  • 片桐成二先生 北海道大学大学院獣医学研究院 教授
  • 村上裕信先生 麻布大学獣医学部 准教授