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アニコム損害保険株式会社は、2023年5月10日、京都大学、帝京科学大学との共同研究により、犬の行動や麻薬探知犬の訓練適性に関連する遺伝子変異を発見したと発表した。この成果は、犬の行動に関する適切なしつけや、麻薬探知犬の効率的な育成に寄与できる可能性がある。
同研究成果は、Springer Nature社が刊行する学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
- Genetic dissection of behavioral traits related to successful training of drug detection dogs
- Yuki Matsumoto, Akitsugu Konno, Genki Ishihara, Miho Inoue‑Murayama
- Scientific Reports 13.
- Article number: 7326 (2023)
麻薬探知犬は、空港や港での違法薬物の密輸を防ぐために育成される作業犬。麻薬探知犬の適性は、標的への関心の強さに加え、人や犬に対する友好性も重要な要素になる。主にジャーマン・シェパード・ドッグとラブラドール・レトリーバーの2犬種が用いられているが、両犬種とも日本のみならず世界的に見ても適性試験の合格率は30~50%程度と低く、訓練にかかる労力とコストを下げるためには、より効率的な育成が課題となっている。
同研究では、東京税関が管轄している麻薬探知犬訓練センターの協力を得て、これまで麻薬探知犬のトレーニングを受けた経験のあるジャーマン・シェパード・ドッグとラブラドール・レトリーバーあわせて326頭を対象に分析を行った。まず、トレーニング中に実施していた行動評価の結果について、品種や性別による違いを分析。ここで分析した特徴(行動形質)は、「活動性」「大胆性」「集中力」「人に対する友好性」「独立性」「標的(訓練で使用するタオル)に対する関心」「犬に対する寛容性」の7項目。分析の結果、7項目中2項目において犬種差がみられ、「人に対する友好性」と「犬に対する寛容性」について、いずれもジャーマン・シェパード・ドッグよりもラブラドール・レトリーバーの方が高いという結果であった。雌雄差については、今回分析した項目においては認められなかった。
次に、イヌのゲノム全域の12万個以上の遺伝子変異(一塩基多型=Single nucleotide polymorphism;SNP)のデータを使用して、7項目の行動形質と最終的な認定試験の合否に対する遺伝的な寄与度合いを調べた。その結果、ジャーマン・シェパード・ドッグにおいては「大胆性」が、ラブラドール・レトリーバーにおいては「犬に対する寛容性」が、認定試験の合否に対して大きく影響していることが分かった。また、行動形質と認定試験の合否に対し、一塩基多型を用いたゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study;GWAS)を行った。その結果、1.ジャーマン・シェパード・ドッグの「標的に対する関心」、2.ラブラドール・レトリーバーの「人に対する友好性」、3.両犬種における認定試験の合否の3点について、あわせて27個の一塩基多型を含む11個の遺伝領域が関連していることが明らかになった。なおこの遺伝領域の周辺には、63個のタンパク質コード遺伝子が存在しており、Atat1やPfn2など、マウスの不安関連行動や探索行動への関連が知られている遺伝子が含まれていることも分かった。
これらの結果から、麻薬探知犬を含む犬の行動に関与する遺伝的基盤の一端が明らかになった。同研究の成果は今後、犬の行動やしつけトレーニングの改善、さらには麻薬探知犬の育成に役立つことが期待される。