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本書の著者は、日本野生動物医学会の設立(1995年)メンバーであり、現在も幹事を務める酪農学園大学教授 浅川満彦先生である。日本における野生動物医学に、勃興から現在まで携わり、牽引してきた浅川先生によるエッセイであり、専門書とも言える書。章構成は以下の通り。
- 第1章 寄生虫はどこからきたか
- 第2章 野生動物医学を教える
- 第3章 野生動物に感染する
- 第4章 鳥類と寄生虫
- 第5章 野生動物と病原体の曼荼羅
- 第6章 次世代へいかにバトンを渡すか
小さいころから線虫に興味を持ち、その思いを叶え寄生虫学の大学教員となった浅川先生は、ある日、勤務する大学から野生動物学の講座の兼任を任じられる。時代は野生動物医学会が設立された頃と重なる。本書の中で「寄生虫を愛でたいだけでこの世界にいる私が…」とは言い切る筆者が、野生動物医学をどう捉え、教育してきたかを語る。浅川先生は40歳を過ぎてからロンドン大学大学院の1年間のマスターコースに留学し、野生動物医学をさらに深く学ぶ。留学費用は自費。熱い思いが伝わってくる。
第3章や第4章は専門的な話となるが、研究内容を包括的にとらえることができる内容となっている。傍目には地道に研究をしているようにみえても、探求心がいかに素敵なことかがわかる。さらに、どのように社会にフィードバックしていくのかについて言及している。
研究予算の獲得など生々しい話も軽妙に綴られながら、興味深い話題が加えられ本書は面白さを増している。
環境保護、自然保護の概念の発生と運動が展開され、獣医学的アプローチの野生動物医学にも影響が与えられている。環境・自然保護をも包括するワンヘルスの提唱のもと「保全」という概念につながっていく。本書では「保全」の概念、保全したいという感情の発露の本質も語られている。
本書が最も活かされる読者は、研究室の選択に悩む獣医系学生、生物学や獣医学などの進路に迷う高校生であろう。回答もしくは解決の糸口を見つけることができるのではないだろうか。もちろんそれらの方々以外にもとても楽しめる内容となっている。
- 書名:『野生動物医学への挑戦 寄生虫・感染症・ワンヘルス』
- 著者:浅川満彦
- 発行元:一般財団法人東京大学出版会
- 発行日:2021年6月10日
- 価格:定価3,190円 (本体価格2,900円)
- 詳細・購入:http://www.utp.or.jp/book/b577416.html