JVMNEWSロゴ

HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事

■新刊 『獣医学の狩人たち 20世紀の獣医偉人列伝 2』

2020-03-11 14:43 | 前の記事 | 次の記事

『獣医学の狩人たち 20世紀の獣医偉人列伝 2』

2017年に発行された『獣医学の狩人たち 20世紀の獣医偉人列伝』の続編である『獣医学の狩人たち 20世紀の獣医偉人列伝2』が、2020年3月に発行された。著者はNOSAI岡山家畜診療所の元所長の大竹 修先生。大竹先生には「獣医畜産新報」(文永堂出版)のリージョナル・アドバイザーも長く務めていただいた。

今回は以下の20名の人物紹介が記載されている。

中村道三郎、大澤竹次郎、田中丑雄、白井恒三郎、梅津元昌、中村稕治、中村良一、北 昻、西川義正、椿 精一、今泉吉典、桐沢 統、幡谷正明、藺守龍雄、阪崎利一、三宅 勝、杉江 佶、村上大蔵、阪口玄二、坪倉 操

本書の中で人物紹介が記載されている頁数は362頁。人数で割ると各人物当たり18.1頁となる。ひとりひとりが詳細に記述され、読み応えがある。取り上げられた人物は、研究分野をリードして確立させてきたり、教育に多大な貢献を行ってきた先生方ばかりである。研究業績の紹介には、当該人物のみでなく、その研究に携わっていた多くの先生方も登場し、肉付けされている。本書を読むことによって、それぞれの研究分野の流れがつかみとれることになる。また、文体、構成がしっかりとしているので、分かりやすく読むことができる。この大竹先生の文章については、本書出版に尽力された鹿児島大学名誉教授の浜名克己先生が「軽妙洒脱な文体」と表現されている。

取り上げた人物全ての顔写真が掲載されているが、顔写真の収集は容易ではなかったと思われる。恐らく膨大な資料に囲まれながらの執筆であっただろうと想像される。

さらに本書には、本文中に出てきた専門用語の解説がついている。101の用語が簡明に解説されているが、著者の解釈を味わうことができ面白い。

本書を読んで、動物学者の今泉吉典先生とその息子である今泉吉晴先生がともに獣医師であることを初めて知った。「獣医畜産新報」を創り上げてきた白井紅白先生をはじめ、同誌ゆかりの先生方のことが記載されており感慨深く読んだ。

(文:松本 晶)

前著である『獣医学の狩人たち 20世紀の獣医偉人列伝』(http://www.omup.jp/modules/tinyd1/index.php?id=193)には28名の先生方のことが収載してある。売れ行きも好調と聞いている(それ故に今回の2が発行されたのであろう)。

「獣医畜産新報」の2017年7月号(539頁)に掲載した東京大学名誉教授の佐々木伸雄先生による書評を以下に再掲載する。なお、佐々木伸雄先生による『獣医学の狩人たち 20世紀の獣医偉人列伝 2』の書評が「家畜診療」(全国農業共済協会)に掲載されることになっている。

書評 大竹 修 著『獣医学の狩人たち、20世紀の獣医偉人列伝』

評者 東京大学名誉教授 佐々木伸雄

本書は、明治期から昭和にかけて日本の獣医学の発展に多大な貢献をした、微生物分野の梅野信吉、越智勇一、平戸勝七先生等、解剖学分野の増井 清先生等、病理学分野の市川厚一、山際三郎先生等、寄生虫・内科学分野の板垣四郎、小野 豊先生等、外科学・麻酔学分野の松葉重雄、木全春生先生等など、卓越した日本の獣医師28名を選び、その研究や社会活動等を紹介したものである。

著者は、iPS細胞の山中伸弥博士のノーベル賞受賞に触発され、医学に比較して獣医師の活躍を伝える書籍が圧倒的に少ないことを思い、明治期以降に日本の獣医学に貢献した人物に焦点を当て、資料を調べ始めたという。

獣医学に限らず明治期から戦前の日本社会における情報は少ない。敗戦後の日本においては、戦前の情報があまり顧みられて来なかったためであろう。実際には、多くの先達者が多分野において有意義な研究を行っており、その教えは昭和世代に引き継がれ、現在の獣医学にも引き継がれている。もちろん、最近の獣医学の進展は、医学同様凄まじいスピードで進行しており、戦前の研究成果の多くは過去のものかもしれない。しかし、それぞれの先達が、それぞれの時代にどのように考え、努力し、先進的な研究を行って来たかを知ることの意義は大きい。

著者の大竹先生は牛の臨床家として多大な研究を行ってきた。先生の臨床に対する情熱は非常に熱く、その熱に触れて育ってきた若い獣医師も多い。大竹先生の文章は診療に対する熱意と同様に熱い。ここに取り上げられている各獣医師に対する思い入れが伝わってくる。きっとそれぞれの時代に努力してきた先達に対する敬意が込められているのであろう。

これらの列伝—偉人伝で取り上げられた獣医師に関する資料は乏しい。大竹先生は関連する多くの文献をあたり、また関係者に積極的に質問し、たくさんの情報を仕入れている。特に戦前の資料はかなりの部分紛失していたものと思われるが、少しずつそれらをたぐり寄せ、今回の列伝を著した。

数年前、獣医臨床関連の獣医師7名に関する列伝を記し、それが「家畜診療」に連載された。今回はさらに多くの先達に関して紹介されている。しかし、これで終了ではない。第2版にはさらに多くの先達に関する情報がもたらされるものと期待する。多くの若い獣医師、学生には是非一度本書を開き、日本の獣医界における近代獣医学の発展を俯瞰すると同時に、それぞれの環境の中で如何に努力することが重要かを認識して欲しい。