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■東京大学 産業動物臨床学研究室を設置 猪熊 壽先生が就任

2019-08-26 17:16 | 前の記事 | 次の記事

猪熊 壽先生。1986年に東京大学を卒業し、農林水産省に入省。1994年に山口大学に着任、2005年に帯広畜産大学へ。2019年8月、東京大学に着任された。

クリホージュ種

シバヤギ

庁舎・研究棟

 東京大学に産業動物臨床学の研究室が動物医療センター内に設置され、帯広畜産大学教授より転任した猪熊 壽先生が2019年8月1日に教授に就任した。

 母校の教授に着任した猪熊先生の拠点は茨城県笠間市にある東京大学大学院農学生科学研究科附属牧場(東大牧場)となる。東大牧場に猪熊先生を訪ね、お話しを伺った(2019年8月22日)。

・産業動物臨床学の教育体制が変わるのでしょうか。

 従来からもちろん講義、実習が行われていました。ただし、他大学の先生方にお出でいただいて、集中的な形で行っていましたが、あくまでも産業動物臨床の基礎部分です。今後、東大としても産業動物臨床実習を充実させていくために私が着任したことになります。

 実習は5年生が対象となります。参加型臨床実習の部分は、従来より千葉県農業共済組合連合会にお世話になり全員(30名ほど)が2日間の診療随行実習を行っています。それは当面継続することになると思いますが、将来的には、牧場近隣の獣医師や農家さんの協力を得て、ポリクリとして1週間ほどの実習を行っていきたいという希望はあります。

 また東大牧場は牛のほかに、豚、山羊、馬と動物種が多いのが特徴です。現在、豚を実習の材料として使えるところはなかなかありません。他大学の学生も受け入れることのできる豚の臨床実習を行っていけるのではないかと構想しています。

・研究の体制・運営は。

 牧場が拠点となり、1週間のうち金曜日は授業や会議等で弥生キャンパスに行くのが基本的なスケジュールとなります。

 研究室として弥生キャンパスにいる学生をどう指導していくのか悩ましいところです。弥生キャンパスで産業動物を飼うことができればよいのですが、現状では施設や環境問題などの課題をクリアする必要があります。また、たくさんある研究室の中で、産業動物臨床学研究室を学生に選択してもらえるのかという問題もあります。まずは東大牧場を拠点にして、社会人大学院生を募ることが現実的だと考えています。

・どのような研究を展開されますか。

 従来より行っている「症例の解析」と「牛白血病の診断と発症予防」の研究を続けたいのですが、東大牧場では病畜を受け入れる診療施設・設備やスタッフが整っていません。地元の家畜保健衛生所や家畜診療所との連携を図りながら、地域の症例の「診断支援」から手掛けていくことを考えています。

・東大牧場の施設について教えて下さい(同行見学・技術スタッフの方々のお話も交えて)。

 乳牛、馬、豚、山羊が飼育されています。東大牧場は、社団法人日本馬事会日本馬事錬成農場に始まり、社団法人中央馬事会日本馬事会主畜農場等を経て、1949年に東大牧場となりました。馬は11頭飼育されており、牧野の半分は馬用です。アルゼンチンのラ・プラタ大学から日本中央競馬会に寄贈されたクリオージュ種が飼育されていることは特徴です。

 もう1つ特長的なのは山羊の飼育です。110頭ほど飼育されていますが、累々と継代されている名だたる実験用の山羊です。実験用の山羊を生産している大学牧場は珍しいはずです。

 乳牛は20数頭飼育され、現在5頭から搾乳し、出荷しています。数はそれほど多くありませんが豚も出荷しています。また福島の原子力発電所の事故で当時の避難区域にいた豚も調査用に飼育されています。ただ初代はすべてデータ材料となっており、今は2世のみとなっています。

 防疫体制が万全とも言えず、そこは整えていく予定です。

 牧場は全体で36.4万m²で、動物の飼育舎、放牧地のほか、本部となる庁舎・研究棟のほか、教官宿舎、学生宿舎(50名ほどが宿泊可)、技官事務所、動物医療センター分室、高度動物実験棟などがあります。また庁舎・研究棟には教員室、大学院生室、講義室、実習室などがあります。

・インタビューを終えて

 猪熊先生は単身赴任で、弥生キャンパスへのアクセス、生活の便、東大牧場までの距離から石岡市にお住まいである。帯広市のご自宅では、奥様が犬の世話をされているとのこと。巨大結腸症の9歳の猫は、ケアが必要なことから連れてきており、猫との生活をおくられている。

 インタビュー当日はインタビュー後に茨城県NOSAIに出向かれるとのこと。多忙のなか、これからの教育、研究、牧場に整備にと意欲的に語っていただいた。

 牧場の施設が老朽化していることは否めないが、管理がとても行き届いている。30名ほどの学生が実習を行うには、十分以上の規模だと感じた。豚に触れるのはアドバンテージと述べられたが、「タイミングが合えば豚の去勢を実習として学生に体験してもらいたい」と実習のアイデアはどんどん浮かんでいるようであった。

(インタビュー・構成:松本 晶)