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■獣医事審議会 小動物医療、学生の就職について検討

2019-07-24 19:22 | 前の記事 | 次の記事

審議会の冒頭で挨拶を述べる神井弘之審議官

 農林水産省は、2019年7月23日、農林水産省の会議室で「令和元年度獣医事審議会第2回計画部会」を開催した。

 「獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針」を作成するための議論が進められているが、今回は小動物医療の課題と大学生の就職について討議された。

 まず委員の村中志朗先生(公益社団法人日本獣医師会 副会長)が「小動物獣医療の現状と今後の対応」について以下のように述べた。

 小動物獣医師の数はずっと増加し続けている(資料は2016年までのデータ)。30代以下はほぼ半数が女性となっている。小動物診療獣医師数は、現在の学生数や就職状況を考えると今後も増え続け、女性の割合も増えていくだろう。小動物診療施設は一部地域(福島県)を除き全国的に増えているが、関東、関西、中京の大都市圏に集中しているのが現状。獣医師が1人の診療施設は約64%だが、1診療施設当たりの獣医師数は増えており2014年のデータでは5.1人となっている(1994年は3.1人)。診療施設の売上高も増加しており、犬・猫1頭当たりの診療費も増加している。そのような現況ではあるが、犬の飼育頭数は減少傾向にあり、今後も大幅に減少する予測が出されている。また動物の高齢化により診療費が伸びが支えられている現状を考えると、近い将来、小動物獣医療の市場規模は縮小する懸念がある。

 一次診療と二次診療施設の連携が求められているが、組織的な取組体制は未整備、専門獣医師の名称が付与された獣医師が増えているが、専門獣医師の名称の広告は禁止されているなどの問題があり、その整備や改革が求められる。

 村中先生は今回作成する基本方針に規定すべき小動物獣医療提供体制の構築に向けての課題として以下のことあげた。

  1. 高度で専門性の高い獣医療提供のための認定・専門獣医師制度の構築
  2. 高度で専門性の高い獣医療提供のための地域獣医療のネットワーク体制の整備
  3. 愛玩動物看護師法に基づくチーム獣医療提供体制の構築
  4. 新興・再興感染症対策、「One Health」の考え方に基づく獣医療の提供」
  5. 女性獣医師に対する就業・復職支援
  6. 退職獣医師の再雇用等による代替獣医師の確保
  7. 小動物診療領域におけるAIや情報通信技術等の活用

 専門医・認定医については、現在の様々な認証団体があるが、それらを農林水産省が統括し、その実務を公益社団法人日本獣医師会が行うモデル案を示した。

 討議では、飼育頭数の減少に対する懸念とその対策について質問が出され、「様々行ったが決定的なものとはならなかった」との解答があった。対策の1つに学校飼育動物の推進があるが、学校飼育動物は「子供たちが気持ちよく動物を抱き上げることができるよう(動物がよい匂いがするくらいの状態)にしていくことが必要」との提案もあった。さらに小動物獣医療における薬剤耐性菌の問題も盛り込んでいく必要があるのではとの意見もあった。また、競走馬以外の馬の診療が手薄の状況の中で、認定医制度を活用し、小動物分野の獣医師が馬も診療していく体制づくりの構築の提案もあった。

 続いて同じく委員の水谷哲也先生(東京農工大学教授)が「獣医師の職業意識の醸成に関する大学の取り組み」について述べた。

 学生に人材が不足している公務員や産業動物分野を就職先としていかに選択してもらうかが課題となっている。

 水谷先生は、1年次に将来について学生と話をしている感じでは、大まかなものではあるが希望進路は小動物分野50%、公務員20%、産業動物分野10%であり、これは現在の職域分布とほぼ一致している。正確なデータではなく、また大学による差もあるとは思うが、入学時に志望した通りに就職していく学生が多いのではないかと考えられるとのこと。自身の職場としての研究職もまた人材が不足していると述べた。ただ、in vivoin vitro の両方の研究ができ動物に精通している獣医師は、他分野の学生よりも有利で、例えば国立感染症研究所には多くの獣医師が働いていると述べた。

 次いで公衆衛生や産業動物分野の大学教育の取り組みについて、まず、文部科学省「獣医学アドバンスト教育プログラム(平成29年~31年度)で行われている「家畜衛生・公衆衛生獣医師インターシップ(VPcamp)」(東京大学が窓口)と「産業動物臨床分野におけるアドバンスト教育プログラムの構築」(岐阜大学が窓口)を紹介し、実際の参加者数を示した。この両プログラムにはほぼ全国の大学が参加している。またいくつかの大学の産業動物分野の実習の取り組み事例などを紹介した。

 討議では「小動物分野に進んでもすぐに辞めていく獣医師は多いはず。そのデータを国として把握していくべきでは」との意見が出された。それに対して事務局(農林水産省)は、「職業を押し付けるわけにはもちろんいかないが、そのような獣医師たちに人材が不足している分野を選択してもらう施策は考えていかなければいけない。その前提となるデータをまとめる必要性は感じている」と述べた。

参考:「獣医事審議会第1回計画部会」(2019年5月21日)のニュース記事
https://buneido-shuppan.com/jvmnews/article/jvm20190524-008