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- 著者:日本比較生理生化学会
- 発行:2026年8月20日・化学同人
- 判型・ページ数:B5判・146ページ
- 定価:2,860円(本体2,600円+税)
- 詳細:https://www.kagakudojin.co.jp/book/b10172229.html
浅川満彦(酪農学園大学名誉教授/野生動物の死と向きあうF/Vetsの会代表)
mitsuhikoasakawa(アットマーク)gmail.com
はじめに―本拙稿の対象動物
本書は次の①~⑤のパート(部)から構成される;①感覚のしくみ、②組織・器官の成り立ち、③個体行動のしくみ、④経験と適応および⑤個体間行動のしくみ(詳細な節タイトルは公式URL目次御参照)。したがって、生物中で②以外の現象を我がことのように実感するため、本書主題となる動物とはお馴染みの四足類が中心となる。これ以外の無脊椎動物では、古典的な生理・行動学研究モデルの軟体・昆虫等で、これらの登場はある意味想定内だろう。しかし、紹介者(私)の専門対象が寄生虫(=医動物、以下、ムシ)なので、非常に刺激になった箇所も多々あった(後述)。
が、パート③内に系統的に非動物の太陽虫が見え(77頁)、ムシの系統に拘る紹介者(私)は一瞬だけ落ち着かなかった。もっとも、野生動物の腐った死体塗れの日々を生きた私は、生時・新鮮個体(材料)でしか得ることが出来ない本書で明示された数々に刺激を受けっぱなしであった。当然、この一原生生物の闖入なんぞ、本書にはまったく致命的ではない。それに、本書序で、わざわざ原生動物と明示しているし…。
さて、本拙稿だがWebメディアJVM NEWSの主要読者は鳥獣に御関心があると仮定し進める。もちろん、私も鳥獣に親和性を示すが、あくまでもムシ宿主としてだけである。よって、ムシに近そうな話題が出たら、確実に脱線する。乞御容赦。
特化組織・器官を用い感じる
だが、本書冒頭パート(①および②)で扱われた鳥類はキンカチョウ(囀り)とヒヨドリ(甘味受容体)だけなので、愛鳥家ならちょっと寂しい出だしである。が、飛翔動物つながりでコウモリ(反響定位と赤外線[温度]感受性)が扱われていたので、そちらで堪えよう。御承知のように夜の王者コウモリは反響定位をするが、それが記された類似能力がイルカ類の仕組み(音響脂肪/左右非対称頭骨)と見開きで明示されていた。その構成の見事さは、ケチな物足りなさなど見事に吹き飛ばした。
申し遅れたが、この見開き方式は本書全体で導入されて、理解の助けになっている。
無知な私が純粋に驚いた点は、何と言っても(アフリカ)ゾウ嗅覚受容体の種類が約二千(ヒトの約400)もあった事実である。シロアリ等昆虫食のアフリカ獣(上目)祖先が、どのように展開しそういった結果になったのか嗅覚進化が気になった。本書にはそういう切っ掛けが随所に仕掛けられワクワクした。前述したヒヨドリの受容体の性格から(甘物好き)、樹木(のハナ華)に賑やかに集まる光景は、あたかもファミレスでパフェ(スイーツ)を堪能している最中と解することになる。本書は野性をそのように解読する指南書である。
そうは言っても、鳥類全般では旨味受容体が無いとあり、一瞬「アレ?」となったが、まあ、もっとも、あの硬くて細い舌では「さもありなん」と解した。私は(もう一つの専門たる野生動物の法獣医学者として)大量の変死体と向きあって来た。よって、本書のように生きた動物でこそ得られない多量の情報に眩暈がした。定年で腐った死体塗れから引退した今、本書に出会い、後知恵的に本書を楽しんだ。
脱線しそうなので、味覚に戻るが、マーモセットでは腸管内で樹液・樹脂を発酵させ、腸管上皮の味覚受容体で堪能するという。それ程までに、このグルメ報酬系は、獣類進化上、堅固ということなのだろう。換言すると味覚は進化のダイナモとも見えて来た。
もっとも、味わう前に餌を得ないと始まらない。濁った環境で棲息するカワイルカの仲間コビトイルカやカモノハシの索餌では電気センサーが不可欠。目立たないが画像で提示されたのは有難い。
ただし、その頁にあった食糞防止用カラーを付けられたウサギ画像は、獣医師として気になった。開腹手術痕を舐めるのを防止?それとも何らかの実験中?本書をお読みなる方の中には、気にする人が必ずいらっしゃる。一言説明があった方が良い。
問題行動の理解のため熟読
獣医師の立場から、最近問題視される問題行動への適切な対応は重要な課題である。したがって、本書②~④のパートにはそのヒントがあると期待した。実際、たとえば養育関係成立前提に、犬と人との愛着形成の機序や嗅覚が鎹となる母子の絆等は参考になると思う。
犬に比べれば、飼鳥の問題行動は大きくクローズアップされることは少ないものの、見て触れるフクロウカフェ等の業態では、かかりつけ獣医師は相談を受けるようだ。そのような際、本書で提示された具体的な求愛活動(ダンスディスプレイや囀り等)や繁殖を補助するヘルパー(後述)に関する知見は有益である。
また、鳥インフルエンザ等野鳥に関わる公共獣医事(公衆/動物衛生)の獣医師は、感染症管理で鳥類行動生態(渡り、採餌・探索、鳥個体間コミュニケーション等)知見は職務遂行上、助けになる。AI武装した住民あるいは畜主へ半端な説明は命取りである。本書で学ぼう。有難いことに、本書のモデル動物として何かと問題を起こすハトも扱われ、確実に参考になる。
眠りと闘い
ヒト認知症原因物質となる老廃物(アミロイドか)除去等で健康維持のために必要な現象が眠りという。膾炙されるレム/ノンレム睡眠が図解され、我々自身の健康生活に直結した記述があった(我々も動物なのだ)。この生理的現象をイルカ・水禽の脳ではその半分だけを交互に眠らせる等、睡眠を比較行動学的に眺望する書きぶりは、それだけで純粋に面白い。
個体間行動の例としては闘争・捕食回避、その延長の擬傷行動・擬態、社会形成・交尾行動等々が扱われ、その中心がコミュニケーションである。特に霊長類のそれでは、表情・音声が重要とされ超納得であろうが、ムシ屋の私は捻くれている。
ニホンザルの外部寄生虫を採集した際、コミュニケーション手段がグルーミングであると確認し、実は、これが本書を手にした契機でもある。その79頁最下段にサルジラミ画像があるが、これは当方拙稿から転載された。その拙稿とはWebメディア『いきもののわ』連載の一つ「野生動物の法獣医学と野生動物医学の現状【第18回】野生動物医学研究の材料としてハードルが高いサル類-野生種編」(2025年2月)で御覧頂ける。
鳥獣以外の動物から
前節末尾で野生動物ムシ屋の一端を披歴したが、シラミのような節足動物は苦手で、脚を欠くクネクネ状の動物(蠕虫)が好きなのである。本書でもとんでもなく面白い奴が登場していた。まず、ヒル。見開き一杯の蛭!周期性を持つ動きとしてそのユニークな行動様態が提示されていた。ヒルは衛生動物なのでギリギリ私の守備範囲内。しかし、この体節神経節の画像は初見であった。神経節は鳥獣にもあり、代表的なのは三叉神経節で、そこに帯状疱疹ウイルス等が潜み悪者扱いの印象だが、ヒルの規則正しい移動運動(蠕動)の源になる。もし、ヒルの姿や動きに感動されたら『図説 世界の吸血動物』にある中野隆文先生(京都大学)が著された関連章も御覧頂きたい。そこにはヒル類が様々な宿主・生活空間に蔓延り泳いで、這って、吸血するを体感出来よう。
真の蛭とはずれるが、典型的ムシ肝蛭・膵蛭等がいる。これらは(ヒルの)環形動物ではなく扁形動物である。寄生蠕虫の体前端(頭部)に口があるので、親戚筋の自由生活性扁形動物プラナリアも、そのような配置だと想像するが、まったく違う。口・咽頭にあって、しかもその咽頭が独自神経系を有して獲物に吸い付く。プラナリアは高校生物でも出るのでボヤっと知ってはいても、その食事風景が本書画像で確認出来たのは僥倖であった。
ムシも生存競争を勝ち抜いた生き物であることを社会行動の章で示されたキンウワバトビコバチ幼虫が、同宿主(蛾)体内で他種寄生バチ幼虫と食い合う画像で実感できる。このような画像も中々無いので、これだけでも本書は手元に置くべき理由となる。
獣医学徒時の回想等
前節寄生バチ幼虫の闘いシーン対面頁に、一部鳥類愛好家が留飲を下げる画像があった。それはエナガ基亜種で、地味である。北海道には別亜種シマエナガが分布するが、この頃、妙にフューチャー(依怙贔屓)され食傷気味であった。一般書でこちらの方のエナガが出たのは、非常に稀有!ゆえにもっと大きな画像にして欲しいが、趣旨はそこではない。エナガは繁殖をサポートするヘルパー(前述)として登場させているから…。
その下にハダカデバネズミの姿が見え、四半世紀前、野生動物医学専門職修士課程でしごかれたロンドン動物園を思い出した。当該園Web of Lifeという飼育施設で、このネズミのコロニーが目玉展示とされていた。バックヤードで診療・健康診断をしたものだ(「ロンドン動物園Web of Lifeにおける生物多様性の展示法に関する事例報告」)。帰国後、教え子が働いた縁で、この皮膚病を診断した埼玉県こども動物自然公園の個体と関わった。長寿・抗腫瘍/老化の医学研究にも貢献しているので、このネズミを仲立ちに医獣連携の契機になるかもしれない。
本書100頁のバッタ相変異には目が釘付け目になった。数年前、『動物の事典』(朝倉書店)分担執筆者として招待された。個体群と密度効果の担当となった際、まさにこの相変異現象を前面に出したものの適当な画像が無く苦慮したものだ。もし、当該事典をお持ちの方は、そちらの画像を御参照頂きたい。それにしても、なぜ私がこの項目執筆に選ばれたのだろうか…。
いけないいけない…。本書に戻るが、81頁身近にある物を利用で顔あたりが痒く牧柵に擦り付けるの図があった。私が獣医大1年時の夏休み、日高の競走馬牧場でバイトをした際、この行為でトゲ状になった微小木片が眼瞼部(上瞼)に刺さった子のことを思い出す。その子はデビュー前の牝馬で、当方に妙にすり寄って来るので子細に観察するとトゲが見えた。取り除くと、バイトが終わるまでその子が、私に纏いつくようになった。あの子との思い出は『獣医さんがゆく』(東京大学出版会)に記し、これを参考に漫画『ラストカルテ第8巻155~165頁』(小学館)でも描かれた。その画像が本書上に見え甘酸っぱい日々を思い出してしまった…。
