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- 著者:長谷川寿一・長谷川眞理子・大槻 久・齋藤慈子・香田啓貴
- 発行:2026年3月26日・東京大学出版会
- 判型・ページ数:A5判・368ページ
- 定価:2,970円(本体2,700円+税)
- 詳細:https://www.utp.or.jp/book/b10157504.html
- 浅川満彦(酪農学園大学名誉教授/野生動物の死と向きあうF/Vetsの会代表)
- mitsuhikoasakawa(アットマーク)gmail.com
本書は次の三部構成となる。
- 進化とは何か(第1部)
- 生物としてのヒト(第2部)
- 心と行動の進化(第3部)
各部に三~七つの章が含まれる。各章およびその中に包含される節の正式タイトルは公式URLでご確認いただくとして、それら題名をキーワードとして切り貼りするするような形で、以下、概略・愚見を披歴したい。
第1部
人間(ヒト)の本性探求としてヒトの遺伝・環境、進化学的理解をめぐる誤謬・誤解として古典的進化学とダーウィン以前の世界観、自然淘汰・適応(度)とその例、人間活動が引き起こす進化、分子進化学と遺伝学の幕開け(遺伝子の物理化学と発現機構)、突然変異と中立進化・分子系統樹、ゲノム科学とエピジェネティクス、遺伝子から行動、種の保存の誤り(種の保存と群/個体淘汰)等から論述された。
これら記述の中で、保全医学(理念ワンヘルスを標的とする実学)に関心を有す評者(私)が、とりわけ注視したのは鎌状赤血球/マラリアや皮膚色/くる病、病原体抵抗性(抗生物質耐性あるいは抗免疫不全ウイルスHIV薬)等が記されていた箇所である(40~44頁)。これら現象(人間の健康生活にとって問題点)は前述した理念と密接に関わる進化医学の好例として、私は以前から注視していた。本書で適応という文脈で語られていたのは清々しい。
さらに、この類似的な事象として乱獲による生育変化、さらにはとして進化農学という語が用いられていた点は、こちらのワードが初見であったので新鮮に見え、刺激を受けた。
第2部
このパートこそ、本書のコアとなろう。類人猿・猿人・原人含む霊長類、旧人・新人ヒトそして人類(人間/人)の進化を物語るパートである。私が日本居住するがゆえ、個人的にアジアの原人の多様性という節には特にバイアスがかかった読み方をしたのは御容赦いただくとして、肉食の起源と食物分配あるいは火の利用と調理仮説等は私の専門の一つでもある寄生虫病の起源と変遷という点で様々思い巡らせることができた。
このパートではヒトの生活史戦略が扱われているので、一般論としてのr/K戦略等が丁寧に解説され、本書が教科書であることを思い起こされた。また、心を生んだ古環境等は心理/精神医療に特化した進化医学(前述)展開にも考察の手掛かりを与えるかもしれない。また、ここでは血縁淘汰とこれによらない協力行動の進化とする節も展開し、もちろん直接/間接互恵性も論考され、引き続き性淘汰・家父長制等がチュートリアル的な形で話題展開する。
なお、性淘汰では遺伝子の適応度の差異を示すハンディキャップ原理が取り上げられ(232頁)、当然、鳥類で知られる病原体による二次性徴の質への影響と生存力との関連性にも言及、こちらも前述の進化医学に関連するであろう。かなうならばヒトにおける事例があると、私には嬉しいが…。
第3部
このパートは一気に人間臭くなり、心と言語を含む行動の進化(個体/系統発生)が、これを人類学・考古学との協働で極める話題が目を引く。古生物学(化石)が考古学(遺物)へ徐々にシフトしていく雰囲気が目前に進行し、学問でも縦割りが強固な実情ではあまり前例がない展開を楽しめた。この過程で、これまでに何度か耳にした、しかし半端なままであった自己家畜化したヒト(279頁)がここできちんと理解出来得たのは収穫であった。
また、農学・畜産学としての獣医学徒は表12の小規模伝統社会とその生業との関係性は示唆的であろう。今日の飼料・肥料・燃料等を国外に依存するどこかの国のあたかも0.5次産業の賜物である農畜産物を享受、あるいは我々獣医師のような直接関わる方々は、是非、一瞥いただきたいと願う(すなわち、真の一次産業とは何かの理解)。
おわりに
このパートの末尾、すなわち本書結びに近い位置に提示された節が遺伝子と文化の共生で、尾籠な話で恐縮だが、中年辺りから下してしまう牛乳や玄米食の我が家では憧れの白米の分解酵素における遺伝的な背景を知る。これを読み終えた途端、ヒト/人間の進化旅行から連れ戻され、本書を閉じた。
以上のように、私の関心事のため、ややワンヘルスという観点から注目される進化医学の事項が散見、偏った拙稿となったが、もし、この点に関心があるのなら、本書を推奨したい。ところで、この書籍紹介拙稿は奇しくも新刊『人類学の百科事典』(丸善出版)の書評と同時執筆した(『學鐙』2026年冬号掲載)。したがって、単純な私は、時折、交絡しつつ、されど動物としてのヒトに関してかなりアップデートできたと思う。「ヒトなんて興味無い!」などとせず、本書に加えこちらもあわせ一読されては如何だろう。
