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■【寄稿】書籍紹介『野生動物学入門-問いから広がる生きものたちの世界』を兼ね京大式授業の大枠を知る

2026-09-28 17:13 掲載 | 前の記事 | 次の記事

『野生動物学入門-問いから広がる生きものたちの世界』

  • 浅川満彦(酪農学園大学名誉教授/野生動物の死と向きあうF/Vetsの会代表)
  • mitsuhikoasakawa(アットマーク)gmail.com

本書は次の六章から構成される。

  • 第1章 野生動物という存在
  • 第2章 野生動物の暮らし
  • 第3章 オスとメスそして子育て
  • 第4章 群れをつくる理由
  • 第5章 野生動物の保全
  • 第6章 野生動物をめぐる問い

これらを京都大学野生動物研究センターの10名が分担執筆されていた。専門は哺乳類の遺伝、野外生態、社会行動・心理等で、具体的な研究課題は各章末尾に付記された引用文献上の業績で確認いただきたい。

いずれも劣らぬ優れた成果だが、最終的には対象動物の保全に資するとあった。純粋興味を満たすだけではなく、この応用性は獣医学に通ずると感じた。これが、評者(私)が獣医系本媒体上で紹介する理由である。それに、だ。コアカリ獣医学では、既に野生動物学が包含され久しい(参照:『コアカリ野生動物学 第2版』)。ならば、獣医vs理学の野生動物学の向き合い方を比較するのは純粋に面白そうだ。

さて、本書は著者陣の専門に依拠した専門書に近い内容だが、書きぶりはかなり軟らかい。本書序にあるように、この本は京都大学に入学されたばかりの方々に、文理問わず開講する全学共通教育科目“野生動物学入門”の副読本を主眼に著された。野生鳥獣に少しでも関心のある方ならご存知のように、同大は野生動物に関心を示す多くの学生にとって憧れの場。たとえば旧霊長類研究所。そして今回は、その直系により本書が編まれた。つまり国内野生動物学に関する研究教育の学府で、誰しもが認めるトップランナーである。

ならば、本書には当該授業展開の裏技が記されているはず。私は既に野生動物医学等担当教員からは引退したが、当時の授業展開の答え合わせのつもりで熟読した。本書の特徴は各節が易しい問いかけから始まっていたこと。新入生を配慮したとはいえ、科学としての動物学を至近/究極要因にわける見方を自然に誘導する書きぶりで、私には決して思いもつかないだろう。刺激になった。次回、拙著を上梓するような際、是非とも、参考にさせていただきたい。ただし、そのまま、転写するつもりではないので、剽窃云々とはならない。どうか、その点は御安心を(笑)。

たとえば、第2章4節の「動物のウンチから、どんなことがわかるの?」は、本来の商売柄ゆえ目は釘付けとなった(私の専門の一つが寄生虫[病])。が、そこで寄生虫病や“人獣共通感染症”にまで拡張、言及されていた(57頁;それに、第6章178頁でも同様な記述が繰り返され感謝)。しかし、新入生にいきなり、寄生虫はどうだろうか。そのような病原体とは学生らに、しっかり御理解いただけるだろうか。幸い、京都の京都府立医科大学には微生物・医動物を扱う感染病態学講座がある。その“ウンチ授業”では当該医大の専門家をゲストスピーカーとして招いてはどうか。もちろん、来ていただく際、回覧用の標本は持参必須。「ひゃあー!」という声が聞こえてきそうだ。その際、持参いただくのは(霊長類関係なので)人蟯虫が良い。エコツアーに参加した人から野生類人猿へ、あるいは動物園内来園者から飼育個体に感染させ、下痢や嘔吐、食欲不振などを起こし、時に肝臓などへの迷入により死に至る場合がある。かなり重篤な腸炎を起こした例が知られる(江見ら 2004「チンパンジーにおけるフェンベンダゾールの蟯虫駆虫効果」)。この事実はイノセントな学生さんにも、是非、知って欲しいからだ(注:京都大学医学部には寄生虫[病]学専門もラボは無し)。同大大学院医学研究科人間健康科学系専攻病理学から寄生虫標本がデジタル化されてはいるが(参照:「寄生虫標本をデジタル化し、教育と研究に活用」)、やはり、そこは実物に敵わない。

ただし、蟯虫はかなり小さいので(特に雄は肉眼で楽しむのは無理)、回虫がおすすめである。本書第4章の群れ関係でシャチをモデルに扱っているが、そのお腹(消化管)にアニサキス成虫が寄生するし、その外見はヒトの回虫と同じ(木村・浅川 2020「知床半島で斃死したシャチ(Orcinus orca)における獣医学関連の分析概要:国際捕鯨委員会資料から」)。

加え、新入生の多くが海産魚のアニサキス幼虫は知っている。中にはアニサキス症になった学生さんもいらっしゃるかもしれない。出張講義依頼の件に関して、忘れないうちに…。

京都府立医科大学では寄生虫は“医動物学”というカテゴリーで扱うので、ゲスト講師の御依頼時には依頼先を迷わないでいただきたい。なお、医動物というワードも、一般には聞きなれないか…。これは典型的にお腹のムシに加え、衛生動物(本書では第6章で“最凶/最強動物”を決める文中に登場する蚊やゴキブリ、ノミ等をまとめた迷惑動物群)を加えた生き物群。

ついでながら、本書のように動物を冠した書籍なら、医動物や衛生動物にも言及された方が、バランス上、良いかもね(目立っていて、何となく頭が良さそうなモノが動物の全てと、頭脳が柔らかい新入生に刷り込まないように!)。

私からの話が、やや迷走気味で恐縮しているが、本書上で糞をこのように丁寧に扱っていただいたことに、まず、感謝をしたい(立場がおかしくなる言い方だが…)。だが、尿の記載が、一切、無い!非侵襲的試料(前述178頁)として、とても有用とあったにもかかわらず。

たとえば、ストレスにより体内に生じた活性酸素が体細胞内の核酸を破壊し、その代謝産物が尿に出る。私どもは、人の老人医療でも使われるストレスチェッカーを類人猿(の尿)に応用し、その有効性を明らかにした(Mizuo et al. 2009、大島ら 2012、大沼ら 2011)。この研究は、かのジェーン・グドール先生にお褒めいただいたことがある(ちょっと自慢)。この研究は私が運営した酪農学園大学野生動物医学センター(以下、WAMC)と京都大学霊長類研究所、さらに、熊本サンクチュアリ(本書185頁)の類人猿たちがいた民間医学関連会社との共同研究で実施された。2026年夏、その施設がある熊本県を大地震が襲い、私は心底心配をしたが、直後、知り合いの獣医師に確認したが、皆無事だったようだ。安堵した。なお、国内で飼育される霊長類では、清潔な状態に保たれているので、多くの日本人同様、そんなに寄生虫はおらず、そのような検査は無駄と心配されるむきもあるが、安心して欲しい。私たちの期待は叶えてくれた。つまり、本書でも何度か言及いただいた糞便を直接検査した限り、10年前ではあるが、寄生虫はたくさんいた(秋葉ら 2016「飼育類人猿の糞便による寄生虫保有状況の検査とコルチゾル値測定事例」)。

尿の話にもどるが、私たちの試行で確かに汎用が高いものの、free-ranging個体では、何せ液体なので採材上困難なので、野外を想定した本書では埒外とされた(当然だろう)。ならば、せいぜい、動物園、すなわち域外保全という点で新入生には口頭でお口添え願いたい。

おっとイケナイ。ウンコとオシッコの話で終わってしまいそうだ。

本書に関してはまだまだお話ししたいことがあるし、肝心な理学vs獣医の授業勝負に十分触れていない。が、それは、別の場でのお話しということで。なんと言っても、WAMCは京都大学霊長類研究所が閉鎖されて間もなく、閉鎖されたので後世に向けての伝言(遺言)は、たくさんあるのだから。

§尿を試料にした引用文献