JVMNEWSロゴ

HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事

■【寄稿】野生動物の獣医師を目指す君へ-(1)プロローグ

2026-06-24 16:27 掲載 ・2026-06-24 16:38 更新 | 前の記事 | 次の記事

シンガポールの「Mandai Wildlife Reserve」でレジデント獣医師を務める山藤あかり先生に、ご自身が歩まれてこられた道筋やMandai Wildlife Reserveでの体験などを紹介いただくことになりました。1~2か月のインターバルでの掲載を予定しています。(編集部)

  •  山藤あかり〔シンガポール Mandai Wildlife Reserve レジデント獣医師〕

将来、野生動物の獣医を目指す学生の中には、次のステップに迷っている方も多いのではないでしょうか。私自身、野生動物の保全に携わることが幼少期からの夢でしたが、多くの方々に助けていただいたおかげで、ここまでくることができました。

この文章が、進路に迷っている学生や、海外留学に興味ある学生にとって、少しでも参考になれば幸いです。

経歴

2020年に東京大学を卒業し獣医師免許を取得後、同大学附属動物医療センターで研修医として2年間勤務しました。その後、イギリスの Royal Veterinary College の MSc Wild Animal Health(野生動物医学修士課程)に進学し、修了後は1年間カナダでエキゾチック動物/野生動物/動物園動物の専科インターンを行いました。現在は、シンガポールの動物園でレジデント獣医師として勤務しています。以下、より具体的に、各時点でどういったきっかけでその選択をしたかお話しします。

学部生時代に、学会でお会いした浅川満彦先生(その後、酪農学園大学野生動物医学センターでの学生研修プログラムでもお世話になりました。現在、酪農学園大学名誉教授)に、ご自身も修了されたイギリスの修士課程の存在を教えていただき、卒業後に海外留学したいという意思が固まりました。出願に際し、1年以上の臨床経験が要項であったことから、卒後は東京大学での臨床研修を選択しました。当時は「早く野生動物の勉強がしたい」と逸る気持ちもありましたが、今振り返ると、新卒の段階で臨床の基礎を身につけておいて本当によかったと感じていますし、その時に得た経験と知識が確実に現在の土台になっています。

その後イギリスで1年間の修士課程を通して、「将来どのように野生動物の保全に関わっていくか」というキャリア像がようやく明確になりました。そして、「臨床獣医師として動物園で働きながら、その地域の野生動物の救護にも携わりたい」と考えるようになりました。そして修士課程中に出会った動物園動物の専門医たちの豊富な知識に魅了され、自分も、野生動物/動物園動物の専門医になりたいと思うに至りました。

留学後、カナダ・サスカチュワン大学のエキゾチック動物/野生動物/動物園動物専科インターンとして採用されました。そこで初めて、哺乳類に限らない多様な動物種の医療の基礎を学び、また、地域の野生動物救護に実際に携わる経験をしました。

インターンを修了し、現在はシンガポールの Mandai Wildlife Reserveにて、野生動物/動物園動物の専門医になるためのレジデント獣医師として働き始めたところです。多様な動物園動物の診療に加え、熱帯地域ならではのユニークな野生動物の救護にも携わることができ、日々、学びと刺激に満ちた環境で過ごしています。

イギリスでの野生動物医学修士課程について

Royal Veterinary CollegeのMSc Wildlife Healthでは、野生動物の獣医療、生物学、福祉、疫学、保全学など、野生動物の健康について多角的に、各分野の世界中のスペシャリストから学ぶことができます。1年間の学習期間に、講義、実習、研究が組み合わされています。

講義の期間には、動物園動物の健康管理や感染症だけでなく、トランスロケーション、新興感染症のサーベイランス、野生動物と人との関係性や動物福祉など、幅広いテーマについて学びます。知識を一方的に学ぶのではなく、現実的なシナリオをもとに、自分たちで調べて議論する能動的な形式も多かったです。個人的には、トランスロケーションのシナリオをもとにDisease Risk Analysis(疾病リスク評価)を行ったワークショップが特に印象に残っています。理論と実践が結びつき、大変勉強になりました。

動物園(London Zoo、Whipsnade Zoo)での実習では、動物園獣医療の現場を間近で経験することができます。限られた情報と多くの制約の中で判断を下していく獣医師の姿を間近で見て、動物園ならではの難しさを実感できました。そして、病気を治療するだけではない「管理」の側面(個体数管理や集団としての健康/保全)を間近で見ることができたのも、貴重な経験でした。

国内ではなく海外留学を選んでよかったと思う点は、アニマルウェルフェアや保全医療が社会的にも重視されている環境で学ぶことで、日本とは異なる価値観や意思決定の前提に触れられたことです。また、野生動物医療にまつわる多様な側面をこれほど横断的に扱うプログラムは、私が知る限りでは、日本にはありません。それに加え、個人的には、自分自身の志向や価値観を見つめ直す貴重な機会だったと感じています。それまで野生動物医療といえば、救護/リハビリ、研究などの限られた関わり方しか具体的にイメージできていませんでしたが、留学を通して、多様な立場で野生動物の保全に関わる獣医師の役割があることを知ることができ、そのおかげで、その後の希望進路も明確になりました。

次回は、カナダでのインターン経験と、現在のシンガポールでの仕事についてお話ししたいと思います。