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2026年1月にFASAVA(Federation of Asian Small Animal Veterinary Associations、アジア小動物獣医師会連盟)とロイヤルカナンが戦略的パートナーシップを締結しました。そのパートナーシップについてFASAVA会長の石田卓夫先生にお話をうかがいました。
(インタビュ―:2026年2月18日、ロイヤルカナン ジャポン会議室)
Q まずFASAVAについて教えてください。28団体(オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国、台湾、中国、香港、タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、インド、スリランカの獣医学会等の団体が参加。日本からは公益社団法人東京都獣医師会、一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム、公益社団法人日本動物病院協会が参画)が加盟していますが、注目すべき地域や国がありますか。
石田卓夫先生(以下、石田) 今ようやく伴侶動物医療が生まれ始めている地域から、急速に進歩している地域まで様々で、我々にしてもどの国でどのくらいの状況なのかを捉えきれていないことも多いのが現状です。ですが、皆さんが大変熱心で、とても期待しています。
日本では長年「卒後教育」や「継続教育」という言葉とともに英語では「Continuing Education」が用いられてきましたが、現在では世界的に「Continuing Professional Development:CPD」という言葉が使用されています。CPDとは、獣医療を含むプロフェッッショナルの能力を高めていく継続教育ということです。それがFASAVAの一番の目的です。
獣医学・獣医療の成熟度という観点から地域ごとの状況を述べます。まず、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、日本については、米国・欧州に次ぐ獣医療を形成していますので、むしろ自国で発展している最新の獣医療を他の地域に共有していく立場で、特にオーストラリアやニュージーランドは講演のスピーカーとして積極的に協力しているといった立場になります。
各国の獣医療の現状を私なりに分析しますと、まずシンガポールは富裕層が多いこともあり、経営を含め良質な獣医療が展開されています。
台湾、韓国、香港がそれに追随している国となります。そして中国が続きます。香港の特徴は、小鳥などのエキゾチックアニマルが多いということです。イギリスやオーストラリアで学んだ獣医師が多いと言えます。中国は、都市部と周辺域の差が大きく、また伴侶動物医療の教育はまだまだといったところです。ただ、ものすごいペットブームとなっています。上海市は「ペットフレンドリー宣言」を出し、どこにでもペットを連れていくことが可能で、しつけのよくできている大型犬を連れて歩いています。
マレーシア、フィリピンと続きます。フィリピンからはPhilippine Animal Hospitals Association: PAHAがFASAVAに参画していますが、その設立は公益社団法人日本動物病院協会(Japanese Animal Hospital Association: JAHA)と同じ1987年です。フィリピンの獣医学は成長の途上ですが、都会の富裕層に対してはよい獣医療が提供されるようになっています。ただし狂犬病のワクチン接種や避妊去勢手術などは都市周辺部では課題が残っているため、PAHAなどの団体が積極的に啓発活動を行っている段階です。
そして、成長率が著しい国はインドとベトナムです。インドはシンガポールと同様英語教育がしっかり行われており、FASAVAの役員たち、そして欧米との語学の障壁がありません。そのため、欧米人講師によるセミナーも盛んに行われています。語学のみでなく、インドは人口の多さ、前向きな人々の性格なども相俟って、成長率が高く、アジア、そしてゆくゆくは世界No.1の獣医療マーケットになるだろうと考えています。ベトナムは現状では残念ながら、FASAVAの参加団体がありません。ただ、日本の動物病院の進出もみられますので、今後の成長が期待されています。
その他の国々については、あまり情報はありませんが、インドネシアなどは参加団体を通じて、年間の活動状況などの話は聞いています。タイには、王室の意向もあり世界有数の動物病院が設立されています。
多くの国では、日本が長年かけて学び、修得し、知識・技術を積み重ねてきたことを、一足飛びで吸収して成長しているという感じです。獣医療をささえる物(機材)や知識は最先端を導入できますが、知識の積み重ねによる経験は足りないといった状況です。ただし、日本でも伴侶動物医療の大学教育は、国のシステムを始め、まだまだ改善すべきところはあります。
・日本の立場は
Q 日本はFASAVAの中で指導的な立場なのでしょうか。
石田 オーストラリアのDr. Roger ClarkeによってFASAVAは2007年に発足しました。故人ですが、著名な獣医外科医でした。その元で多くの韓国の獣医師が学んでいました。そこで、まず韓国を中心として組織されました。日本は、戦後から続いている卒後教育の浸透もあり当初からのメンバーではありませんでしたが、FASAVAからの要請もあり、まず東京都獣医会が加盟しました。また、FASAVAの年次大会を2019年に日本で開催するにあたり、日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)が加盟し、ともにFASAVA 2019を成功裡に導きました。JAHAはつい最近になって宗像俊太郎会長がアジアの獣医界に興味を示され、一緒にアジアの学会に参加した後、FASAVAの加盟を決められました。
・世界小動物獣医師会(WSAVA)との関係
Q FASAVAとWSAVAはどのような関係にあるのでしょうか。
石田 WSAVAは4年に1回大会を開いていて、これまで4回に1回程度アジアでの開催もありました。FASAVAは毎年アジアのどこかで大会を開催しています。これに伴い、これまでも、WSAVAがアジアで大会を開き、FASAVAと共同開催をしていた時期もあります。しかしWSAVAがアジアで大会を開けば、その参加者のほとんどはFASAVAの加盟国からの出席となり、互いの収益配分も難しいことになりますので、最近は共同開催をしていません。
JBVP(石田先生は創設者)も以前はWSAVAの正会員でしたが、JBVP自体大きくなりすぎたのか、現在は正会員ではなく戦略的パートナーという立場です。
先ほども述べましたが、FASAVAは毎年大会を開いています。今年は、10月31日(土)~11月2日(月)に台湾・台北で「FASAVA 2026」を予定しています。2027年はフィリピン、2028年は台湾・高雄で開催する予定です。FASAVAの年次大会は、28の会員区域を越えて多くの獣医療関係者が参加するので、互いに切磋琢磨できる場所になっています。そういった意味でも、日本の先生方もぜひ参加してみてください。
・ロイヤルカナンとの戦略的パートナーシップ締結
Q ロイヤルカナンとの戦略的パートナーシップを締結した経緯、意義を教えてください。
石田 2026年にロイヤルカナンと新たにパートナーシップを締結し、メインスポンサーになっていただきました。これまで、約25年間にわたってサポートしていただいたHill'sからバトンタッチしたという流れです。
ロイヤルカナン アジアパシフィックには多くの人員が配置されており、アジアにおけるプレゼンスを非常に大事にしています。
前会長で現会計担当者を務めるオーストラリア人の Matthew Retchford 氏、さらに次期会長でマレーシア人のGopinathan Gangadharan氏とロイヤルカナン アジアパシフィックで獣医療コミュニケーションを担当するNina Bosco氏の、そして私とロイヤルカナン ジャポンのコミュニケーションがどれもスムーズで、今回の締結に至りました。今回のロイヤルカナンのスポンサードでは、資金的なことだけでなく、FASAVAがこれから運営していく各プログラム内容に至るまで、細かなところまで支援を行っていただくことになりました。この締結が、ロイヤルカナンのアジア市場でのさらなる躍進に繋がることも大切だと考えています。
例えば、ロイヤルカナンには、各大会等における栄養学プログラムの展開に期待を寄せています。これからペットフードを使い始めるという国や地域もあります。そこで正しいフードの知識を普及させる必要があるからです。私自身かつて失敗をしたことがあります。猫が喜んで食べるし、安いからといって猫缶を与えていたところ、腎臓が悪くなり、十分な生涯を送らせてあげられませんでした。やはり猫の幸せな生涯には、栄養学は重要だと気づいた原体験です。
我々は、よいフードを与えれば犬や猫は健康に長生きするということを経験しています。1つのフードを一生与え続けてもよいのかどうかという問題がありますが、ロイヤルカナンの製品の場合は、ウォルサム研究所(MARSの研究所、ロイヤルカナンはMARSグループの一員)や同社のペットセンターによる長期にわたる給与試験に基づいており、信頼度が高いといえます。世界で55年以上にわたって、科学に基づく様々な知見と経験を蓄えてきたブランドの強みであり、これは一朝一夕にはいかないという意味で、獣医師の信頼度は高いのです。
・4つの重点
Q 今回の締結においては4つの重点事項、「疾病を抱えるペットに対するプロトコル」、「子犬、子猫の健康」、「予防医療」、「高齢期の健康管理」があげられています。どのように展開していくのでしょうか。
石田 伴侶動物の獣医学がこれからという国は、外科の講義を望む傾向があります。そのテクニックを学ぶということは楽しいことだし、経営面でも大きな収益をもたらします。しかし、まず必要なことは内科学に基づく、きちんとした診断と治療です。内科学を浸透させていく必要があります。
そしてその根底にあるのは、やはり良い食事です。米国では古くからHill'sがその啓発を行い、著名なEttinger氏の獣医内科学のテキストには、古くから疾患に対応したフードの記載がありました。今やもう治療の一環であるといえるフードもあります。
恐らく便利だからということでペットフードは普及していったと思います。しかし、現代はそういう時代ではないことは科学が証明してくれており、フードは内科学や栄養学に基づいて開発された、ペットにとって最良の食事だと言えます。
「疾病を抱えるペットに対するプロトコル」
このテーマは、継続教育の柱として教えていくことになります。ただし要望に応えるのみでは、外科や救急医療に偏りかねません。年次大会は年に1回しかありませんが、内科学の診断、治療の講義も充実させていきます。この領域をおろそかにしてはなりません。獣医療がまだ発達途上の国の先生方は先進的な獣医療に大変高い興味を持っていますが、CPDディレクターの先生方と一緒に、外科医療と内科医療のバランスの良い配分と、内科学や栄養学の醍醐味を教えていくことも大事なことだと考えています。 「子犬、子猫の健康」 生まれてからの1年間で将来が決まると言っても、過言ではありません。まずはワクチンによる予防、そして正しい食事です。幼年期、成長してからの食事の切替、不妊手術後に合った食事などライフステージ毎に適切なフードが変わっていきます。その必要性、よさをわかってもらわなくてはなりません。社会化も特に最初の1年では重要なことであると啓発する必要があります。社会に好かれるペットであることは重要で、そういうペットを育てなければなりません。いまだに米国でもみられますが、人への凶暴性によりペットが安楽死となってしまうことは悲劇です。 動物にとってストレスフリーになるような動物病院側の改善も重要です。ストレスのコントロール、ペインコントロールにより動物を幸せにしていきます。 これらのことは日本がとても進んでいます。ロイヤルカナン ジャポンのサポートで「ねこ医学会」が運営されており、1歳までに動物病院に通おうというキャンペーンを行っています。他国でも、そのような状況にしていく必要があります。 ただどうしても予算によりセミナー回数が限られ、大会が年1回しかないこと、そのプログラムは開催国主導で作成されるという課題があります。 そこで、食事と疾患の関係などのプログラムについて、ロイヤルカナンに期待をする訳です。ロイヤルカナン ジャポンには、最近、米国獣医内科学会(栄養学)専門医(DACVIM, Nutrition)を取得した斎藤(石井)千絵先生がおりますので、アジア地域におけるこれからの活躍も期待しています。 「予防医療」 国によって流行りの病気が異なりますが、人と動物の共通感染症のコントロールがまず大切です。参加国では狂犬病の予防も重要ですが、それは各国の獣医師会が行うことです。我々は、WSAVAが作成したワクチネーションプロトコールを普及させていく必要があるでしょう。ワクチンを打ち過ぎず、適切な間隔で接種していくことを指導していきます。 「高齢期の健康管理」 国によって寿命がとても異なっています。最長寿は日本です。そしてオーストラリア、ニュージーランド、韓国、台湾のペットの寿命が長くなっています。 各国の調査を行うべきだと考えています。その数字に基づき、改善点を示していきます。そこでもキーになるのは食事です。 猫はどうしても腎臓病になることが多いです。ただ、そうなっても食事によるコントロールで長生きはできます。 Q 良質のフードによる適切な食事がいかに大切か、そして根底は栄養学ということがよくわかりました。実際にそのようなフードは普及しているのでしょうか。 石田 例えばロイヤルカナンでは、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、中国、台湾、香港、シンガポール、フィリピン、インドネシア、マレーシア、インドといった具合に多くのアジア市場で製品が流通されています。それ以外の国でも代理店を通して輸入販売はされているでしょう。 例えば、ロイヤルカナンの「早期腎臓サポート」にはとても注目しています。オメガ3系不飽和脂肪酸を増量してあり、抗炎症作用で関節の悪い症例にも期待ができます。オメガ3系不飽和脂肪酸だけを食事とは別に、効果的な量を投与すると太ってしまうのが問題ですが、食事としてカロリー調節ができていることが大きな利点の画期的なフードです。ただ、嗜好性は個体によって異なりますから、食べてくれるようにするのも大切な課題です。 ・日本人の奮起を Q 最後にFASAVAの中での日本の立ち位置を教えてください。 石田 日本の先生には、スピーカーとして講演を進んでやってもらいたいと考えています。日本で専門分野を持つ先生方は、米国の専門医でなくても、とても優秀です。本物だと思います。優秀なスピーカーは大勢います。しかし、英語で1日講演して欲しいとなると、二の足を踏みます。言葉の壁はいまだにあります。我々日本は、欧米に次ぐ優れた獣医療を形成しています。となると、他人のためになるような仕事を行うべきなのです。 カンボジアやインドネシアで、動物病院単位で指導している獣医師もいますが、もっと学会などで講演を展開することも重要です。 一方で、私は獣医療は国民のためにあるという信条を大切にしていきたいと思います。日本は国旗や国歌に対して比較的消極的な反応がありますが、米国でも他の国でも、学校の教室に堂々と国旗が掲げられていますよね。獣医師免許は国から与えられるのですから、日本国民のために精一杯尽くしてください。そうすれば、次にアジア各国でサポートが求められていることが見えてきます。手を差し伸べる一歩を踏み出してください。自分の仕事に自信を持っているのならば、これを世界各国で広めてみようというぐらいの気概でやってみてください。 Q 本日はありがとうございました。 (協力:ロイヤルカナン ジャポン合同会社、聞き手:JVM NEWS 松本 晶)
