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- 浅川満彦 著
- 2025年1月・東京大学出版会発行
- 定価: 2,970円(本体2,700円+税)
- 詳細:https://www.utp.or.jp/book/b10105531.html
本書のサブタイトルに「15歳」が使われているが、主対象は高校生であり、表紙には「Guiding of the Veterinary Jobs for Senior High Schooler in Japan」と記されている。人生岐路において獣医師にあこがれる高校生(中学生も)は多いことでしょう。大いなる希望を持って「動物のお医者さんになりたい」と。本書筆者の浅川先生はこの春まで酪農学園大学で教鞭をとられていた。その浅川先生が高校生たちに向けて、獣医師の活躍の場はもっと多様であり、それを具体的に知った上で夢に向かって欲しいという思いをまとめたのが本書である。
とはいってもまず第1章として「動物のお医者さん」であるペット動物病院の紹介から始まる。寄生虫学、野生動物学が専門である浅川先生は、この原稿のために動物病院に取材に出向かれている。それ以外の専門分野についても、学生時代の日高の馬牧場でのアルバイト経験やその後の自身の体験に基づいた記載もみられ、多々紹介される職域の記載では、具体的な職場名があげられている。
単に職域を紹介するだけでなく、様々なエピソードや知見が満載で、病気についていえば、原因、様子など教科書には書かれないようなものもわかりやすく紹介されている。話は多方面に広がり、リズムある軽快な文体で読みやすく、獣医学における教養書と言っても過言ではない。動物たちとの向き合いかたを学べ、それは人と動物の関係の深淵に近づけるかと思わせる内容である。
あちこちで寄生虫の話題がでてくるのは浅川先生ならではで、「ムシ」と柔らかな表現で記され、読者を寄生虫好きに誘う感もある。
ベテリナリアンの語源をはじめ、専門用語の解説もあり、高校生のみならず入学後の獣医科学生のプレ学習にも最適である。獣医師が修得しておいたほうがよいが、残念ながら獣医学教育では及ばない分野があることが明記してある。学生にはとても参考になるだろう。
読めば獣医学領域、獣医療への向かい方を学ぶことができるという1冊。獣医系大学を目指す高校生のみでなく、進路に悩む大学生の参考にもなるだろうし、獣医師にとっても学びとなるのではないだろうか。何より、とても面白い。
帯のコメント(表紙写真)は酪農を営む家で育ち、動物をテーマする小説が多い直木賞作家の河崎秋子さんである。浅川先生とはお知り合いとのこと。本の中にも河崎さんの小説『清浄島』が紹介されている。
また表紙カバーがちょっと特殊な用紙(加工?)で、手触りがよい。
§構成
- はじめに
- 第1章 もはや家族の一員-ペットを診る獣医さん
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- ご近所にある動物病院の一日
- イヌとネコを苦しめた謎の<風邪>
- エキゾって?-ハムスターやカメ、そしてタランチュラまで
- 第2章 ウマやウシの健康をまもる獣医さん
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- 乗り手を選ぶウマ-<相棒>が家畜になるとき、獣医さんは?
- ウシやブタを診る獣医さん-命をストックする食用動物
- 家畜・展示動物の病気では予防が要-家保の獣医さんはホワイトヒーロー
- 第3章 ヒトの健康を支え、ペットのいじめを防ぐ
-
- 家畜がいなければ…
- 安全・安心な食肉をまもる獣医さん
- ほかの食と関わる獣医さん
- 衣と住、ほか健康な暮らしに関わる獣医さん
- ペット虐待を阻止せよ!
- 第4章 野生動物の獣医さん
-
- 傷ついた野生動物を救うとは?
- 減った動物をもどす獣医さん-希少種保全の獣医さん
- 増えすぎた動物をもどす獣医さん-保護管理の獣医さん
- 第5章 これからの獣医さんたちへ
-
- 獣医大で、今、なにを学ぶ
- 未来の獣医さん-自分磨きで差別化
- 獣医大入学前に…
- おわりに