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- 池谷和信 編
- 2025年3月・海青社発行
- 定価 3,960円(本体3,600円+税)
- 詳細:https://www.kaiseisha-press.ne.jp/cat.pl?type=view&htma=2&RecordID=1739524411&bmode=all&btype=bs&begin=0&line=15&srtidx=22&srtmod=down
国立民族学博物館・総合研究大学院大学名誉教授の池谷和信先生が、編集者としてとりまとめた1冊である。2009年から2016年にかけて16回にわたって開催された熱帯家畜利用研究会での発表が元になっているとのことである。
まず序章で池谷先生が、本書は歴史的視点、文化的視点、経済的視点に注視する民俗学の立場からの畜産に関する研究のとりまとめであることを提示する。
熱帯地方の畜産にはその原点のような飼養と家畜と人の関係もみられ、それが示される。畜産学や獣医学領域の方々も把握しておくべきことであろう。
第2章はエチオピアでの家畜飼養の話であるが、アフリカの家畜分布とツエツエバエの生息域との関係の考察も述べられる。ウズラ、バリケン、水牛など日本では比較的論じられない家畜のことも章立てされて紹介されている。
飼育家庭(農家)の聞き取り調査結果が、多くの章で述べられる。各家庭の生活も垣間みれ、これは民族学ならではであろう。事例の数は概して多くはないが、深く詳細に調べ、人の生活をさぐる研究はとても面白い。地域、一家の畜産への参入から撤退までが述べられる例もある。
驚いたのは第11章で展開されるパキスタンの水牛のミルク生産の話である。大都市であるカラーチの都市圏ではミルク生産が盛んであり、同国のミルク生産量は世界第4位とのことである。
また「緑飼料」など畜産学では使用しない用語が使われる。この分かりやすい用語に触れ、専門用語でも分かりやすくあるべきだろうと考えさせられた。
冒頭15頁にわたる口絵は、「私たちは、家畜なしでは生きられない」「野生と家畜はつながっている」「さまざまな現場に対応した飼い方がある」「家畜や家禽の利用の仕方はさまざま」「都市の市場に集まる家畜、家禽、ミルク」「家畜と暮らし」「家畜と人のかかわりの歴史と現在」のテーマでまとめられ楽しめ、デザインも凝っている。
畜産とは何かを改めて考えされる1冊であり、熱帯の畜産に興味のある方には特に薦めるものである。
§構成
- 序論
- 第Ⅰ部 家畜化・品種化のパースペクティブ
- 第1章 飼育イノシシと人―沖縄の事例から家畜化を考える
- 第2章 「森の民」が家畜を飼うとき-エチオピア南西部・マジャンギルの家畜飼養
- 第3章 家畜飼育からみたタイ農村の生業変化
- 第4章 家畜の毛の加工技法と利用
- コラム 在来から外来種へ
- 第Ⅱ部 文化に根ざした家畜・家禽飼育
- 第5章 家禽卵文化としての フィリピンのウズラ飼育と卵利用
- 第6章 タイ北部の農村開発における山地民の対応-ウシやバリケン導入の試み
- 第7章 出稼ぎと手のかからない家畜飼養-ネパール山地村落における舎飼いと日帰り放牧
- 第8章 農村を移ろうブタ、農村を追われたブタ-ケニア・ 養豚フロンティアにおける経営変化と地域分業システム
- コラム タイ・チョンブリー県の水牛レース
- 第Ⅲ部 都市の市場と家畜の流通
- 第9章 大都市のなかの養豚と肉の流通―コンゴ民主共和国のキンシャサの事例
- 第10章 タイのウシ・スイギュウ定期市―地域をめぐり、国境を越える流通の諸相
- 第11章 大都市に集まるスイギュウ―パキスタン・カラーチの都市搾乳業
- 結論
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JVM NEWSでは、2024年11月21日に「文化人類学 池谷和信先生の『スイカ』の講義動画」を掲載している。