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■書籍紹介『シャチ-オルカ研究全史』

2025-03-28 17:43 掲載 | 前の記事 | 次の記事

『シャチ-オルカ研究全史』

筆者の水口博也さんは、著名な動物写真家である。そして本書は、著者の経験と研究者による成果が折り重なりまとめられている。引用されている論文は膨大な数である。研究者ではないといっても、京都大学理学部動物学科の出身であり、研究者と交流を重ねている。そのような経歴の筆者ならではの構成であり、研究成果は分かりやすく述べられ、シャチの行動描写では、シャチのことを全く知らない私でも情景が浮かんでくるようである。

シャチは1970年代始めに背鰭の形状で個体識別が確立され、以降、各地で詳細な研究が続けられている。地域独特の生態の特徴があり、その記述はとても興味深い。

海生哺乳類のことを知りたいと思ったときは、まず本書を開くことをおすすめする。

最終章では、体内に蓄積する汚染化学物質のことなど問題点に言及し、シャチの未来を問う。それは決して楽観できるものではなく、海洋環境の、そして地球環境への姿勢を読者に問う。

本書にあえて注文をつけるのならば、写真の大きさ。白と黒のシャチなので写真がモノクロであることは全く問題はないが、もっとたくさんかつ大きく掲載してもらいたかった。まあ、それは写真集に譲るということで欲張り過ぎてはいけない。

単行本には珍しく、解説が末尾に添えられている。解説者は、帝京科学大学の篠原正典先生。先に目を通せば、理解の助けになるかもしれない。この紹介文を書くにあたっても助けられた。

略目次

第1章 アメリカ、カナダの太平洋岸から

  • サンファン諸島
  • 研究のはじまり
  • シャチという動物
  • レジデント
  • A30の家族
  • 文化と伝統をもつ存在として
  • 南部レジデントの奇妙な“文化”

第2章 文化をもつ存在

  • 鳴音の研究
  • “方言”をもつシャチ
  • ポッドはどう分かれてきたか
  • 更年期をもつシャチ
  • 息子を守る母親
  • トランジェント
  • トランジェントの狩り
  • DNAの解析技術の発展とともに

第3章 北部北太平洋のシャチ

  • アラスカのレジデントとトランジェント
  • 東南アラスカの沿岸水路
  • プリンス・ウィリアム湾
  • アラスカ・レジデントの声
  • プリンス・ウィリアム湾のトランジェント-AT1グループ
  • AT1グループの声
  • AT1グループの未来
  • コククジラを襲うシャチ
  • より西へ
  • 最後の氷期が終わって

第4章 さまざまな生態型~南極海と北大西洋から

  • 南極海から
  • 南極のシャチ
  • 生態型それぞれ
  • 体をおおう珪藻
  • タイプD
  • シャチは1種か
  • ノルウェー北極圏のシャチ
  • カルーセル・フィーディング
  • 小さすぎる獲物
  • 北大西洋のシャチ
  • タイプ2その後
  • ジブラルタル海峡のシャチ
  • マグロを捕食するシャチたち
  • 汚染化学物質のホットスポットとして

第5章 南半球のシャチたち

  • アルゼンチン、バルデス半島のシャチ
  • アタック・チャネル
  • メルとベルナルド
  • プンタノルテ以外の場所で
  • バルデス半島、その後
  • クロゼ諸島のシャチ
  • ニュージーランドのシャチ
  • オーストラリア、ブレマー海底渓谷海域のシャチ
  • ニンガルーリーフで
  • サメを襲う南アフリカのシャチ

第6章 世界のシャチがたどった道、そして日本へ

  • 世界のシャチの遺伝的な多様性が乏しいこと
  • シャチは1種ではない?
  • 世界のシャチがたどった道
  • レジデント、オフショアとトランジェントの関わり
  • 最後の氷期のあとで
  • 集団間の交流と分断
  • 東部熱帯太平洋
  • イカを食べるトランジェント
  • 日本にすむシャチ
  • 最終氷期極大期における避難場所として

第7章 シャチに未来はあるか

  • 大量死が教えるもの
  • セントローレンス湾のベルーガ
  • 世代を超えた蓄積
  • 餌をめぐる窮状
  • 南部レジデントの憂鬱
  • 懸念される近親交配