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コスモス国際賞選考専門委員長の池谷和信先生(国立民族学博物館名誉教授)。講演に先立ちサザーランド博士の研究業績を紹介し、自身の研究分野である環境人類学とも接点があることを述べた。
公益財団法人 国際花と緑の博覧会記念協会は、2024年11月16日(土)、2024年コスモス国際賞受賞記念講演会を、東京大学伊藤謝恩ホールで開催した。講演会の模様はオンライン配信され、会場約200名、オンライン約400名の参加があった。
今年の受賞者は、ケンブリッジ大学動物学科 研究部長のウィリアム・ジェームズ・サザーランドWilliam James Sutherland博士。その業績は大きく、(1)行動生態学と個体群生態学を統合する理論の実際、(2)エビデンスに基づいた保全の確立・実行・普及、(3)生体保全のためのホライズン・スキャンニングを主導の3つに大きく分けられる。
授賞式は11月12日に大阪市・住友生命いずみホールで催され、サザーランド博士には賞状、メダルと副賞4000万円が贈られた。
講演会は「効果的な環境保全施策と実践のために」のテーマで行われた。サザーランド博士は、環境保全施策はエビデンスに基づいて行われるべきだと述べた。まずは、飛行機事故や医療におけるエビデンスの重要性と実務に取り入れられている現状を紹介。環境保全についても同様として、実現していくために、サザーランド博士は、関連論文を閲覧できるサイトである「Conservation Evidence」を構築している。このサイトは98言語対応しており、日本で読むことができる。2024年11月18日の閲覧時点で、9,030件の関連論文の要約、3,890件の実践例が掲載されている。講演では、エビデンスを確認することで、より効果的に対策ができるのみでなく、実践におけるコストが削減できるというアンケート結果も紹介した。また、より的確な研究の記述、実験設定の仕方についても触れた。さらに保全活動に対する資金援助を行う場合、エビデンスに基づいた活動内容かどうかを問うべきだと述べた。そのためのチェックリストが著書である『Transforming Conservation: A Practical Guide to Evidence and Decision Making』に掲載されている。そのリストは以下の通り。
§Checklist of eight actions for leaders to consider enacting
- Ensure that job advertisements for decision-makers specify the need to understand evidence-based practice.
- Make someone responsible for creating and delivering a strategy for evidence use.
- Establish a process of providing training on the principles of evidence use.
- State that reporting on evidence use (e.g. an outline of how evidence was incorporated) is expected in plans and reports produced by the organisation.
- Establish a process so that contracted reports require a statement on evidence use.
- Include the standard question, “Does your manager routinely ask about the underlying evidence?”, in annual reviews of practitioners and decision-makers.
- Create a process that ensures applications for funding include reflections on the underlying evidence.
- Make someone responsible for ensuring that tests of an action are regularly initiated, for example at least annually, and results published.
サザーランド博士は、エビデンスの重要性の啓発活動の一環として、YouTubeチャンネル「Bill Sutherland's Conservation Concepts」を開設している。
講演に次いで、日本の保全生態学研究者である国立環境研究所の石濱史子先生との対談が行われた。対談のコーディネータは、コスモス国際賞選考専門委員で東京大学教授の宮下 直先生が務めた。対談は「エビデンスに基づいた保全とは何か」を主テーマに進められた。「Conservation Evidence」に掲載されている日本発の論文は少ないのが現状。しかし、環境省の行政官もエビデンスベースを重視している面もあり、それに基づいたガイダンスも出されている。また、自然共生サイトは急速に増えている。それをエビデンスに基づいた保全活動に結びつけていことが重要。日本では人工林に接する耕作放棄地における外来種の侵入も問題となっているが、その保全において効果的なゾーニングも必要と石濱先生は述べた。サザーランド博士はその際に正しい科学を導入すべきだと後押しした。
石濱先生は参加している「つくば生き物緑地ネットワーク」の活動でアドバイスを求められた際に経験に基づいた返答をしてしまう場合もあり、実践活動を行う上での施策とのギャップ、研究とのギャップを埋めていく難しさについてもふれた。