JVMNEWSロゴ

HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事

■ブタ卵子の発生率が2倍以上に ガラス化保存法の改良 農研機構

2024-07-22 15:37 | 前の記事 | 次の記事

農研機構は、2024年7月19日、超急速冷却によるブタ卵子のガラス化保存法において、改良により従来法と比較してブタ未成熟卵の発生率を2倍以上に高めることに成功したと発表した(参照:農研機構プレスリリース「ガラス化保存法の改良によりブタ卵子の発生率が従来の2倍以上に!」)。超急速冷却によるブタ卵子のガラス化保存法とは、高濃度の凍結保護剤を用いたガラス化液に浸して冷却することで保存する手法で、農研機構が確立したもの。今回、この保存法で用いるガラス化液の組成を改良した。

在来品種の豚は、その希少性や肉の特色などから、遺伝資源としてだけでなく産業利用の面からも注目されている。しかし、特に発展途上国などでは経済発展に伴う飼育環境の変化によりそれらの在来品種を飼育し続けることが困難になり、維持できなくなるケースが見受けられ、ブタ遺伝資源の喪失が加速している。また、豚熱などの感染症によりこれらのブタ遺伝資源が壊滅的な打撃を受ける可能性もある。貴重な優良形質を持つブタ遺伝資源の喪失を防ぐには、それらの形質を持つ個体を飼育し続けるだけでなく、個体の生産を可能にする精子や卵子などを安定的に保管、提供できるようにする必要がある。

このため、精子や卵子を超低温で保存し、適宜それらを融解・加温して次世代の生産に使用する技術が開発されている。これまでの技術では、凍結時に細胞の内外に生じる氷の結晶による傷害や、保存剤に含まれる化学物質が原因と思われる凍結融解後の胚の発生不良等が問題となっていた。そこで、胚や卵子の細胞内液を脱水・濃縮するとともに凍結保護剤に置き換え、すぐに液体窒素中で冷却することで細胞内外に氷の結晶を作らずにそのまま超低温保存する方法、すなわち「ガラス化保存法」に期待が集まっている。しかしながら、ブタでは受精卵以外の卵子、特に未熟な卵子のガラス化保存法による子豚の生産効率は低く、ブタ遺伝資源の保存手法への活用の観点から改善が必要な状況であった。

農研機構では、これまでにガラス化保存法で冷却し超低温保存したブタの体外受精卵(2009年)及び未成熟卵(2014年)からの産子の生産に世界で初めて成功している。

今回、農研機構ではブタ卵子のガラス化保存の効率向上と実用化に向けて、氷の結晶の形成防止のために加える化学物質の量を低減するなどガラス化液の組成を改良し、ガラス化した卵子の胚発生率を大幅に向上させる手法を考案した。未成熟卵のガラス化保存後の生存率はこれまで30%程度だったが、今回の改良により80%以上に改善した。また、実際の希少在来品種であるベトナム産のバン種の未成熟卵についても、本ガラス化法の有効性を確認した。

本手法を用いることで、クライオバンク(凍結バンク)を活用したブタ遺伝資源の安定的な保全が可能になると期待される。