HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事
- 著者:柳川 久
- 定価:3,300円(本体3,000円+税)
- 発行:2024年4月・東京大学出版会
- 詳細:https://www.utp.or.jp/book/b10049715.html
帯広畜産大学の教員で野生動物管理学担当の筆者(現在、帯広畜産大学名誉教授)は、着任した翌年の1989年から同大学が受け入れに取り組んだ野生傷病鳥獣の担当になる。獣医師ではない筆者は、食性を含め生態学面からアプローチで対応していく。傷病鳥獣を救うためには、治療行為のみならず、生態学的な情報が必要なことはいうまでもなく、筆者をはじめとする研究室のメンバーが傷病鳥獣救護について重要(献身的)な役割を果たしていくことになる。
野生鳥獣の救護の目標は野生復帰である。しかし、それはとても難しいものである。放鳥したとたんにカラスに襲われたトラツグミの例のことが紹介してある。やがて個体救護以上に傷病鳥獣を減らしていくことのほうがもっと重要ではないか、という思いに至る。そのような話が「第1章 野生動物の救護」で展開される。
そして、動物を傷つける主要な原因である交通事故を減らしていく話である「第2章 ロードキルからロードエコロジー」へと続く。
季節変動があるエゾアカガエルのロードキルの原因を調査で突き止め、その対策を北海道開発公社へ陳情する。その際、捕食する猛禽類が事故に会う可能性もあわせて訴え、対策を実現させる。そして対策を検証した結果、見事に効果を得ていたことが分かる。学生や同僚教員とともに手探りで行っていく取り組みが、動物の命と社会への貢献という形で成果となる。携わる学生もやりがいがあったであろう。話の展開は面白く、グイグイと読み進む。
次に道路などの開発時に動物の行動を考慮した行政や開発側との共同の取り組み事例を述べた「第3章 野生動物の通り道」。単に動物のための道を考えるのみならず、周辺農家への影響も考えていかなければいけないこことが述べられている。ここでも人との関わりが丁寧に解説されている。また、防風林を利用する猛禽類の種間関係のことが解説してあり、とても面白い。
第4章~第6章は各動物種のことが深堀りされているが、筆者自身の経験に基づいたものとなっている。
野生動物と人との共生がどうあるべきかについての、この30余年の変遷がよくわかる1冊である。
なお筆者の写真のみならず、様々な提供者から集められた多くの写真が掲載されているが、どの写真も動物がきれいに撮れている。よい写真を集めるのは、かなり大変だったのではないだろうか。写真を眺めるのも楽しい。
§目次
- はじめに
- 第1章 野生動物の救護
- 1 はじまりは傷病鳥獣の救護から
- 2 野生動物はどんな原因で死んでいるか
- 第2章 ロードキルからロードエコロジーへ
- 1 ロードキル対策
- 2 ロードエコロジー対策
- 第3章 野生動物の通り道
- 1 防風林と動物
- 2 河畔林と動物
- 第4章 身近な隣人と付き合う
- 1 エゾモモンガ
- 2 エゾリス
- 第5章 増えた希少種と付き合う
- 1 タンチョウ
- 2 オジロワシ
- 第6章 大型動物と付き合う
- 1 エゾシカ
- 2 ヒグマ
- 第7章 野生動物とともに
- 1 これまで
- 2 これから
- おわりに