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■犬のリンパ腫の治療効果を予測する新しい手法を開発 アニコム

2024-01-18 16:05 | 前の記事 | 次の記事

アニコム損害保険株式会社は、2023年12月21日、北海道大学との共同研究で、DNAのメチル化解析を通じて犬の多中心型の高悪性度B細胞性リンパ腫の治療効果の予後を推定することに成功したと発表した(参照:アニコム損害保険株式会社プレスリリース)。

研究成果は、「Journal of Veterinary Internal Medicine」に12月19日にオンライン公開された。研究成果により得られた検査技術は特許出願中で、一部の動物病院向けに検査受託も開始されている。

多中心型の高悪性度B細胞性リンパ腫(multicentric high-grade B-cell lymphoma:MHGL)は、犬のリンパ腫の80%以上とされ、標準的な治療法として多剤併用化学療法「CHOP療法」が広く用いられている。一般的にCHOP療法によって生存期間は伸びるが、再発も多く見られている。これまでの研究では、CHOP療法による予後を予測するためにWHOの臨床分類や貧血の状態の観察が行われてきたが、いずれも決定的ではなく、予後の予測精度は低い状況にあることが課題となっていた。

今回の研究では、DNAのメチル化に着目。DNAのメチル化はDNAの化学修飾の一つで、蛋白質を生産する遺伝子の発現を制御していることが知られている。細胞の様々な働きに関与するため、ヒトの医療においても大腸がんのスクリーニング検査などに使用され始めている。MHGLの治療の予後にもDNAメチル化が関与している可能性があると考え、DNAのメチル化解析により、MHGLの予後と関連するメチル化部位を調べた。研究は次の2段階で行われた。

1.候補となるメチル化部位の絞り込み

MHGLと診断され、CHOP療法で治療された試験グループのイヌ24頭に対し、ゲノム全体のメチル化を調べて候補となるメチル化部位を絞り込んだ。ここでは、デジタル制限酵素メチル化分析(digital restriction enzyme analysis of methylation:DREAM)を使用したゲノム全域のDNAメチル化分析を実行し、候補となるメチル化されたCpG部位(differentially methylated CpGs:DMC)の中から1,371のCpG部位を特定した。その後の階層的クラスタリング解析により、試験グループ内で予後が良好なグループが特定された(生存期間中央値=463日vs107日、p=0.0067)。その後、FAM213A(DMC-F)およびPHLPP1(DMC-P)の遺伝子に近いDMCが、最終的な候補として選択された。

2.候補となったメチル化部位とMHGLとの関連性調査

候補となった2つのDMCに対して、パイロシーケンス法を用いたイヌ100頭の検証を行った結果、メチル化レベルDMC-F<40%かつDMC-P<10%のグループは、予後が良好であることが示された(生存期間中央値=697日vs299日、p=0.0088)。今回の研究から、MHGLに対するCHOP療法の予後予測は、これら2つの部位のメチル化レベルの解析によって可能となることが示された。