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■「低酸素」「乳酸増加」条件下でがん臭気が増大 アニコム先進医療研究所株式会社

2023-12-19 14:40 | 前の記事 | 次の記事

アニコム先進医療研究所株式会社は、2023年9月29日、筑波大学医学部の菅澤威仁助教、ジーエルサイエンス株式会社との共同研究を通じ、がん転移、悪性化の特徴ともいえる「低酸素」「乳酸増加」という条件下において、肺がん細胞(A549)ががん臭気を通常条件(通常酸素濃度、乳酸なし)よりも多く放出することを明らかにしたと発表した(参照:アニコム先進医療研究所株式会社プレスリリース)。将来的にはがん転移、悪性化と臭気放出にいたる代謝変化の解明につながることが期待される。研究成果はオンライン科学ジャーナル「Frontiers in Molecular Biosciences」に9月21日に公開された。

過去の研究により、いくつかのがん臭気物質が、がん細胞における脂質二重膜上での脂質過酸化反応によって生じうることが明らかとなっている。しかしそれがなぜ、どのようにしてがん細胞で合成されるかまではわかっていなかった。

臭気物質の中にはがん特異的とされるものがあるため、同研究ではがんに特徴的なエネルギー代謝(ワールブルグ効果)、低酸素応答や乳酸代謝との関連に注目した。

前の研究で、臭気物質「ヘキセノール」が肺がん細胞(A549)で顕著に放出されうることを報告しているが、臭気物質の生合成経路は不明なままであった。

今回の研究ではまず、測定が難しい臭気物質を効率的に捕集し測定できる装置VEM-1の開発をジーエルサイエンスと共同で行った。このVEM-1を用い、正常細胞とがん細胞それぞれについて、10種類の異なる培地条件における臭気合成量を比較した。その結果、低酸素、乳酸濃度上昇に連動して臭気合成が増大することがわかった。

そこで生合成に関係すると思われる酵素をin vitroで反応させ、酵素活性測定と酵素反応の生産物となる臭気物質の同定を行うとともに、低酸素応答や乳酸代謝と臭気の生合成の関連について、遺伝子発現比較を行った。その結果、がん細胞において、脂質二重膜の脂質過酸化反応に関係する遺伝子発現群の発現増加が確認できた。

研究成果はがん転移、悪性化の特徴ともいえる「低酸素」「乳酸増加」といった条件が、がん臭気と関わりうることを示した。また一方で、脂質の過酸化反応という酸素を必要とする反応にもかかわらず、がん臭気は低酸素で合成が促進されるという興味深い現象も確認できた。