HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事
2023年12月8日、日本家畜衛生学会大会の午後に家畜衛生フォーラム2023が行われた。今回のテーマは「薬剤耐性菌~人・畜産・水産・環境~」。座長は農研機構動物衛生研究部門の小林創太先生とあかばね動物クリニックの伊藤 貢先生が務めた。冒頭で学術企画委員長の末吉益雄先生(宮崎大学)が、今回のフォーラムは「薬剤耐性(AMR)アクションプラン(2023-2027)」の開始にあたり、各領域でのAMRの実情や課題を整理し、解決に向けての対策の方向性を探ることを目的としていると述べた。発表された演題と発表者は以下の通り(敬称略)。
- JANIS(院内感染対策サーベイランス)~新アクションプラン~
- 菅井基行(国立感染症研究所薬剤耐性研究センター)
- JVARM(動物由来薬剤耐性菌モニタリング)~新アクションプラン~
- 平岡ゆかり(農林水産省動物医薬品検査所)
- 養豚現場での薬剤耐性の現状と課題、解決策について
- 玉村雪乃(農研機構動物衛生研究部門)
- 養鶏現場での薬剤耐性の現状と課題、解決策について
- 内田幸治(元ファイザー株式会社)
- 水産分野での薬剤耐性の現状と課題、解決策について
- 古下 学(水産研究・教育機構 水産大学校)
- 畜産環境での薬剤耐性の現状と課題、解決策について
- 渡部真文(農研機構動物衛生研究部門)
まず菅井基行先生は「厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)」の概略を述べた。JANISには参加医療機関での院内感染の発生状況や薬剤耐性菌の分離状況、同菌による感染症の発生状況の情報が集積され、対策に活用されている。
平岡ゆかり先生は農林水産省動物医薬品検査所の「動物分野AMRセンター」に所属。同センターは、動物医薬品検査所の組織改変で2023年10月1日にできたばかりの部署。動物分野AMR対策の活動拠点として、啓発活動、監視、研究開発、国際協力などを行っている。講演では、モニタリング(JVARM)やアジア地域各国のAMR検査担当者を対象とした研修のこと、小動物分野でのモニタリングなどについて解説した。また、農場ごとの動向を把握していくことが、効果的な対策に必要になってくると述べた。
抗菌剤の販売量は、畜産分野では養豚現場が圧倒的に多い。玉村雪乃先生は、養豚現場での調査・研究をもとにした、抗菌剤使用中止と薬剤耐性率との関係について解説した。農場レベルでの使用量と耐性菌率低減との関連は不明な点が多く、「複数種類の抗菌剤の使用中止が薬剤耐性菌低減に有効となる場合がある」といえる結果にとどまっている。抗菌剤使用量の指標の見直しなどを行い、さらなる解析が進められている。
フロアーを含めた討議では、「モニタリングの対象菌は、臨床現場で問題となるものも取り上げてもらえば、具体的な対策がより取りやすくなる」との意見があり、「家畜保健衛生所の病性鑑定で認められたものの情報を集積しているのが現状。臨床現場の獣医師へのモニタリングも行っていきたい」との回答があった。
講演内容では各国の抗菌剤の使用量の変動を示すスライドもあり、「日本は使いすぎではないか。もっと対策が必要では」との問いかけに対して、対策が進む欧米では販売量が減少しているが、日本では横這いが現状。今期のアクションプランとして、農家毎の使用量低減をはかっていけるシステムを構築しているところとの回答があった。鶏で予防的投与を止めた際にどうなるのかの研究も進めて欲しいとの声もあった。
最期に、座長の伊藤先生が「抗菌剤の使用については、生産者にまかせるのではなく、予防的投与も含めて獣医師が関与していくべき」と締めくくった。
- 農林水産省Webサイト:「動物に使用する抗菌性物質について」
- 農林水産省YouTube「maffchannel」:「薬剤耐性菌関係の動画」
- 獣医師向け(慎重使用や検査手技)、学生向け(獣医師に求められるAMR対策)、伴侶動物の飼い主向け、養豚現場の優良事例など様々な動画が制作されている。