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- 柳川 久 監修
- 塚田英晴・園田陽一 編
- 2023年1月・東京大学出版会 発行
- 定価:6,050円(本体5,500円+税)
- 詳細:https://www.utp.or.jp/book/b614692.html
本書の冒頭「はじめに」は、「みなさんにとってロードキルという言葉は聞きなれない言葉かもしれない」から始まる。ロードキルとは交通事故またはそれが関わる野生動物の死のことである。実際にメディアに取り上げられたものを見る機会は少ないと思う。私も埼玉県の山間部近くに住み、近所ではシカと車の接触事故が起こっているのに、あまり関心を向けていなかった。本書を手に取るとすぐに引き込まれるほど興味深いものであった。と同時に今までの無知、無関心に恥じ入った。
本書の構成は以下の通りである。
- はじめに
- 序章 「ロードキルという悲劇」-ワイルドライフマネジメントの今日的課題
- Ⅰ ロードキル問題とはなにか
- 第1章 ロードキル問題の歴史的背景
- 第2章 道路による野生動物への生態学的影響
- Ⅱ ロードキルに遭う動物たち
- 第3章 エゾシカ-大型動物のロードキル
- 第4章 キタキツネとエゾリス-普通種のロードキルとその対策
- 第5章 タヌキ-ロードキルの5W1H
- 第6章 ハクビシンとアライグマ-個体群管理を介したロードキル対策
- 第7章 ツシマヤマネコとイリオモテヤマネコ-ロードキルとその対策
- 第8章 アマミノクロウサギ-世界自然遺産の島で多発するロードキル
- 第9章 ケナガネズミ-樹上性哺乳類のロードキル
- 第10章 エゾモモンガ-滑空性哺乳類の分断化対策
- 第11章 ヤマネ-樹上性哺乳類の分断化対策
- 第12章 野ネズミ-森の分断化が遺伝的分化に与える影響
- Ⅲ ロードキルをどう防ぐか
- 第13章 ロードキルデータの現状と課題
- 第14章 ロードキル個体の防疫対応と疫学への応用
- 第15章 ロードキルの防止と抑制対策
- 第16章 ロードキルのモニタリングとデータの活用
- 第17章 ロードキル対策の再考-ワイルドライフマネジメントの視点から
- 終章 これからのロードキル問題-道路生態学への応用
- おわりに
この構成が実によい。第1章と第2章で現況と基本的な解説、そして問題が提起される。
続く第3章~第12章では動物種ごとの記載となるが、対象動物によってその対策がかわること、いかに生態にあった対策が模索されているかがよく分かる。第6章では外来種に対するスタンスが述べられている。第11章のヤマネについては、執筆者の湊 秋作先生らが取り組んでいる世界の手本となる対策であるアニマルパスウェイが紹介されている。第12章の野ネズミの記載では、ロードキルそのものではなく、道路による生息地分断の影響が述べられている。
第13章~第16章では、課題ごとの整理が行われる。浅川満彦先生による第14章の内容は獣医学からの視点となる。ロードキル個体の処理時の防疫対応と、それを行うことになる主な哺乳類の病原体の保有状況が記載されている。
そして17章では、投げかけられた問題が整理されている。著者の塚田英晴先生は、「ロードキル問題を野生動物管理学の1トピックと見なすことで、野生動物管理学の3つの柱である個体数管理、生息地管理、人間社会管理の枠組みから、ロードキル対策を総合的にとらえる観点が得られる」と記している。この問題は野生動物と人に関わる様々なことを包含している。その対策のために、保護と開発の両面が一体化するという、おもしろい局面もある。
締めくくりの「おわりに」には本書の企画から完成の経緯が述べられている。編集に携わる者として、実におもしろく、うらやましく読んだ。
「はじめに」に戻る。そこでは著者の柳川 久先生が本書の価値を次のように端的に述べている。
「この分野で20年以上研究し、北海道に限ってだが多くのロードキル対策に関わってきた私にとって本書のために集まった原稿に目を通して、日本のロードキル問題の重大さにあらためて目から鱗が落ちる思いがある。本書は日本における最初の、そして最新の全国レベルでのロードキル研究の成果の集大成である。」
交通事故は残念ながら起こるし、悲しいことである。しかし、ロードキルは動物と人社会におけるさまざまな事象を含む事例であり、無くしていく、減らしていくという学問分野は前向きのもので、とてもやりがいがあろう。
本書の出版は、研究者・自治体・民間が連携していくこの問題の啓発に大きな影響を及ぼすであろうし、解決に向けての大きな前進になるであろう。実務者や研究者を増やしていくきっかけにもなろう。