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■ゲノム情報から短時間で細菌ワクチンを設計する新手法を確立

2022-12-15 13:02 | 前の記事 | 次の記事

農研機構は、2022年12月13日、ゲノム情報から短時間で細菌ワクチンを設計する新手法を確立したと発表した。豚丹毒菌をモデルとして、ゲノム情報から病原性に関与する遺伝子を推定し、それらの除去により細菌を人為的に弱毒化させることで、短期間で合理的に生ワクチンを設計する世界初の方法。

同成果により、これまで多大なコストと時間がかかっていた細菌の生ワクチン開発が省力化されることが期待される。

家畜や家禽で使用する生ワクチンのほとんどは、自然宿主と異なる動物種や細胞、あるいは、DNAの配列や構造に変化をひき起こす物質の存在下で病原体の培養・継代を重ねることでゲノム上にランダムな変異が起こり弱毒化されている。このため、多くの場合これらの生ワクチンにおける弱毒化機構は不明であり、一部の生ワクチンでは病原性が復帰して強毒化のリスクがあるなど安全性の面において問題が指摘されている。

細菌の場合、安全性と有効性の両方を備えた生ワクチンを開発するには、その第一段階として、病原体のゲノム上に存在する極めて多くの遺伝子およびそれらの発現調節機構を解析した上で病原遺伝子を同定し、それらを除去、あるいは変異を導入するなどして理論的に弱毒化させる必要がある。しかし、病原遺伝子の同定には多大な労力と時間を要するため、優れた生ワクチンを短期間で作製することは極めて困難。

今回の研究では、豚丹毒菌をモデルとして、菌のゲノム情報からアミノ酸合成に関わる遺伝子のみを選び出し、その中から同菌がマウスの免疫細胞(マクロファージ)に感染する際に発現が増強される遺伝子を同定後、その遺伝子を菌のゲノム上から除去する手法により弱毒化させたワクチン候補株を作製することに世界で初めて成功した。この手法は、ゲノム収縮(進化の過程で不必要な遺伝子をゲノム上から脱落させてゲノムサイズが縮小している様子。退行的進化の1つであり、細胞内寄生菌の多くはこの形質を示すことが知られる)という遺伝学的形質を示す菌で特に有効であり、多くの細菌において病原遺伝子の同定が可能になることが期待される。

研究担当者は、動物衛生研究部門動物感染症研究領域の西川明芳先生、下地善弘先生ら。

§発表論文