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• 書名：『獣医師を目指す君たちへ－ワンヘルスを実現するキャリアパス』
• 著者：中山裕之
• 価格：2,970円(税込み)
• 発売日：2022年9月5日
• 発行元：一般財団法人東京大学出版会

東京大学名誉教授の中山裕之先生が、獣医師のキャリアパスについて、15名のインタビュー記事をまとめた1冊。東京大学の教授や名誉教授の対談記事をみかけることはあるが、インタビュー(コロナ禍という時節柄、E-mailでのやりとりもあったとのこと)を行い、それをまとめたというものは目にしたことはない。以前、中山先生は『若いころ科学雑誌 「Newton」の編集者になりたかった』と口にされたということを耳にしたことがある。本の編集がお好きなのだろうと思う。本書は、その編集の才が存分に発揮された1冊である。また、中山先生は今までも『獣医学を学ぶ君たちへ－人と動物の健康を守る』(2019、東京大学出版会)や『それ! 獣医学のスペシャリストに聞いてみよう』(2017、学窓社)の執筆、編集を通じて、高校生や大学生など獣医師を目指す者に向けて書籍という形で「獣医師とはどのような職業なのか」という情報を発信している。

獣医師の職域というと、産業動物分野、伴侶動物分野、公衆衛生分野に分けられることが多いが、実際の職業は単純にはそこに分類できない。本書は以下のとおり構成されている。

• 第1章牛を診る・牛を教える－猪熊　壽
• 第2章食肉を生産し販売する－河野　敬
• 第3章馬を診る・馬を教える－南保泰雄
• 第4章農業共済組合の仕事－横尾　彰
• 第5章犬と猫のお医者さん－諸角元二
• 第6章エキゾチック動物の病気を治す－三輪恭嗣
• 第7章野生動物を救護する－黒沢信道
• 第8章動物園の獣医師－成島悦雄
• 第9章地域に根ざした獣医行政と博士号の取得－大場剛実
• 第10章動物衛生の現場と行政をつなぐ－佐藤真澄
• 第11章国際機関の獣医師－釘田博文
• 第12章食品の安全・安心を守る－吉田　緑
• 第13章薬を創る・薬の安全を守る－鈴木雅実
• 第14章動物の薬を創り販売する－永田　正
• 第15章グローバルな活動で食品の安全・安心を伝える－荻原定彦

各章タイトルの右にあるお名前が、インタビューの相手の先生方である。各先生方の職業分野は多岐にわたり、またその多くが転職を経験されている。冒頭の「はじめに」に「キャリアパスの全貌を紹介したいという思いから、結果として私と同じ世代の方が多くなりました」とある通り、インタビューを受けた先生方は年配の方が多く退職されている方もいる。そのねらい通りキャリアの変遷がよく分かり、獣医師は様々なキャリアを積み上げていくことが可能なのだということがよく分かる。多くの職場が紹介され、仕事の概要やその職域に関わる様々な話題が盛り込まれている。時に脱線しているのではと思わせる記載もあるが、それが故に読み終わってみると獣医学・獣医師に関わる現在の概要が把握できるようになっている。

もっと若い世代で活躍している獣医師のことを知りたいと思う方もいるかもしれない。実は「おわりに」でその紹介もあり、少しではあるがフォローされている。もしかしたら、続編への伏線かもしれない。

進路へのよい道しるべの1冊であり、また、獣医師の方々には楽しい読み物となっている。各先生方の生い立ちや思いはとても楽しめた。