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- 書名:『哺乳類学』
- 著者:小池伸介、佐藤 淳、佐々木基樹、江成広斗
- 価格:4,400円(税込み)
- 発売日:2022年7月21日
- 発行元:一般財団法人東京大学出版会
哺乳類に関することを包括した書が発行された。執筆陣を代表する小池伸介先生は序章において、「哺乳類学とは、哺乳類つまりMammaliaに属する生物を対象する学問である」とし、それらには、系統・分類学、進化生物学、遺伝学、生理学、保全学、形態学、生態学があるとしている。
そして本書の章構成は、それらの学問領域をとりこみ次の通りとなっている。
- 序章 哺乳類学とはなにか
- 第1章 起源と進化
- 第2章 分子進化
- 第3章 日本の哺乳類
- 第4章 テクノロジーと進化哺乳類学
- 第5章 外部形態と骨格
- 第6章 生命維持器官
- 第7章 泌尿生殖器
- 第8章 形態適応
- 第9章 採食
- 第10章 生息地
- 第11章 個体群
- 第12章 群集
- 第13章 科学と規範としての保全
- 第14章 外来種の管理
- 第15章 絶滅危惧種の保全
- 第16章 普通種の保全
- 終章 これからの哺乳類学
紹介者(松本)には第1章、2章を十分に理解するのは難しいが、最新の情報がコンパクトにまとめられているということは分かる。それを読み進めていくと、第3章でそれらの研究をベースに日本の哺乳類の分布ができあがっていく様が解明されてきたことが分かり、ワクワクする内容が展開されている。これらは獣医学領域には含まれていない分野であろう。
次に5章~8章は形態と生理で獣医学の得意分野である。豊富な写真が理解に役立ち、執筆された佐々木先生からも「写真の多さが好評を得ている」とうかがった。そして第8章の形態適応では、水生適応、樹上適応、四肢のマニピュレーション、飛翔・滑空、エコロケーションのことが述べられ、興味深い内容の展開となっている。
第9章~第16章は生態と保全となる。これらの学問が発展してきた時期、公害問題や野生動物の減少が問題となり、その対策が進展するとともにシカやイノシシ等が増加、そして今度は増えすぎたことへの対策、その対策の効果が少し見えてきた今、と変化してきている。クマとの接触の増加や外来種のことなど、社会問題となることは多くあり、生態学や保全学の重要性は増している。実際に現場で対策にあたっている方にも、ここは学びなおしに有用であろう。
序章で「なぜ、私たちは哺乳類を学問の対象するのであろうか。それは、私たちの生活にとって哺乳類が重要な存在だからである」と小池先生は述べている。哺乳類学として1冊にまとめられたのは、時代に求められたとも言えるであろう。
表紙デザインには6種の動物たちの正面の絵が使われている。「本書をしっかり読んで欲しい」と訴えているようにみえる。
(記:松本 晶)