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■犬の血液のもとになる細胞群の性質を解明 アニコム

2022-09-21 11:40 | 前の記事 | 次の記事

イヌ骨髄から採取した細胞の解析の流れ。セルソーターを用いて「全生存細胞群」「CD34+群」「CD34+CD45dim群」の3群に分離された後、コロニーフォーミングアッセイとRNAシーケンスを用いて各群の解析が実施された。

コロニーフォーミングアッセイによる造血能力の比較。A:確認された造血コロニーの顕微鏡写真。左から顆粒球コロニー、マクロファージコロニー、赤血球コロニー。B:細胞1,000個当たりの造血コロニーの数。縦のバーがコロニーの個数を示し、それぞれの色は造血コロニーの種類によって色分けされている。造血コロニーの総数は「CD34+/CD45dim群」で最も多かったことから、さまざまな血液細胞になることができる造血幹細胞を最も多く含んでいると推察された。

アニコム先進医療研究所株式会社は、2022年9月13日、麻布大学と共同で犬の血液のもとになる細胞群の性質を解明したと発表した。犬の血液のもととなる造血幹/前駆細胞(hematopoietic stem and progenitor cells:HSPCs)の造血能力と網羅的な遺伝子発現を解析することによって、イヌHSPCsの性質を明らかにすることに成功した。

この成果は、犬では未だ臨床応用されていない造血幹細胞移植の安全性向上や、造血メカニズムの解明へとつながる可能性がある。また獣医療の現場では供血犬(輸血犬)が活躍しているが、採血時の全身麻酔や採血可能な血液量の制限などが課題となっている。この研究は将来的に、供血犬の負担軽減や供血犬自体の削減にもつながる可能性がある。

同研究はスイス科学誌「Frontiers in Veterinary Science」にて9月12日にオンライン公開された。

同研究では、イヌ4頭の骨髄から造血幹細胞を含むHSPCsを採取し3群に分離した上で、それらの造血能力と網羅的な遺伝子発現を解析し、イヌの造血幹細胞の特徴を調査した。

イヌ骨髄から採取した細胞は、セルソーターを用いて、細胞表面マーカー別に「全生存細胞群(コントロール群)」「CD34+群(全生存細胞のうち、CD34のマーカーが陽性の群)」「CD34+/CD45diminished(dim≒弱陽性)群(CD34のマーカーが陽性で、さらにCD45のマーカーが弱陽性の群)」の3群に分離された。その結果、イヌやヒトで従来よく使用されている「CD34+群(骨髄中の含有率0.36 ± 0.06 %)」に比べ、「CD34+/CD45dim群(骨髄中の含有率0.16 ± 0.03 %)」は、約1/2以下の含有量であることがわかった。

次に各群における造血能力についてコロニーフォーミングアッセイを用いて比較した結果、全ての群で造血細胞を含んだコロニーが確認された。その中でも「CD34+/CD45dim群」にて最も多くコロニーが見られたことから、「CD34+/CD45dim群」が造血幹細胞を最も多く含んでいる(最もHSPCsを濃縮している)ことが推察された。さらにRNAシーケンスによる網羅的な遺伝子発現解析により、「CD34+/CD45dim群」には血液のもととならない免疫細胞の混入が少ないこと、ヒトやマウスで報告されている既知の遺伝子が多数発現していることも判明した。

イヌHSPCsに関する研究において現在利用されている代表的な細胞表面マーカーのうち、「CD34+/CD45dim群」が最もHSPCsを濃縮していることが証明された。さらに、「CD34+/CD45dim群」の遺伝子発現様式は、ヒトやマウスでの既知のものと共通する部分が多いと判明したことから、ヒト医療を参考に獣医療分野での臨床研究等で使用できる細胞表面マーカーの候補を示したと言える。

こうした成果を、イヌ造血幹細胞の利用を含めた獣医療分野の造血研究に応用していくことで、イヌのがん治療法のさらなる発展や安全性確保につなげられる可能性がある。また造血研究が進むことで、将来的には供血犬の負担軽減や供血犬自体の削減にも寄与できる可能性がある。