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■さらなるどうぶつ医療の発展を目指して夏から本格始動 永田雅彦先生

2022-05-10 17:38 | 前の記事 | 次の記事

永田雅彦先生

アジア獣医皮膚科専門医協会とアジア獣医皮膚科学会の設立理事を務めるなど、獣医皮膚科学の発展を牽引してきた、一般社団法人日本獣医皮膚科学会 前会長の永田雅彦先生にお話をうかがった。

設立のメンバーであり、2019年からは院長を務められていた川口市の「どうぶつの総合病院専門医療&救急センター(VSEC)」をご退職されたのですね。

2021年12月に退職しました。二次診療と救急医療を担うVSECも、早いもので設立10年が経ちました。ありがたいことに本格的などうぶつ専門医療施設としての体制が整い、これにあわせて経営も安定してきました。VSECに課題があるとすれば世代交代であり、現在推進されている施設拡張のタイミングで後進に道を譲ることにしました。実はVSECや専門医療には別次元の懸案もあります。それが若い優秀な先生がたの研修後の勤め先不足です。一生懸命に勉強してよい専門医になっても、同じレベルで診療に当たれる専門医が集まる総合的な専門医療施設がないとかれらは活躍できません。もちろんVSECはそのひとつなのですが、ひとつだけでは、あるいは関東だけでは十分といえません。そこで、僭越ながら私がいろいろな地域に出向いて、かれらの仕事場となる専門医療施設作りのお手伝いをしようと思っています。この計画には昨今の世のなかの情勢も大きく影響しました。コロナ禍、自然災害や環境破壊、そして戦争など、2020年を境として世の中の仕組みや経済が大きく変わろうとしています。きっと我々の業界にも大きな変化が求められているのだと感じています。

今日のインタビューはシェアオフィスで行っていますが、ここでは何をされているのでしょうか

日本のどうぶつ医療は、これまでひとりひとりの獣医師のがんばりにより支えられてきたように感じています。諸先輩や同胞に大いなる敬意を表していますが、ぼちぼちこのスタイルに終止符を打つべき時にあるようです。昨今、私より若い先生が、いざこれからというときに病院を手放したというお話しをお聞きする機会が増えています。世の中がものすごいスピードで変化し、そして複雑になりつつあります。これからはひとりではなく、組織で対応しないと生きていけない時代になるのではないでしょうか。その際に求められるのがコミュニケーション力ではないでしょうか。長きにわたり専門医療の必要性を訴え、国内唯一の国際標準専門医が集結するVSECの運営、そして国際的に認めてもらえる専門医療協会作りに携わってきましたが、その工程でいつも私の前に立ちはだかってきたのがコミュニケーションの壁でした。獣医師ならばだれでもできるというものではなく、悩んでいる先生もたくさんいると思います。個々の強みをつなぎ、さらにお互いが苦手を支え合えあうことで、機能的な共同体をつくり難局を乗り切ることができるのだろうと予想しています。そしてこれを達成したときに、これまで以上にすばらしいどうぶつ社会に出会うことができると信じています。ついては自分が関われる領域として、日々進歩する臨床獣医学を体系的に学び続けることができる教育の推進、また関東に限らず日本中で病院同士が連携(病診連携)し奥行きのあるチーム医療成長の推進にとりくむ予定です。この事業を進めていく上で、まさにみんなで取り組むべく旧知の友である二人の獣医師とともに合同会社sasaeを設立し、ここに事務所を設置しました。

具体的にはどのようなことでしょうか

現代は様々な情報を得ることができますが、むしろその情報が氾濫しているかもしれません。どうぶつのご家族は信頼できるかかりつけ医を探しているように感じています。われわれが信頼を得るには、認定医のような突出した技能より、バランスのよい医療者が求められているようです。そこで8年前より、民間、大学を超えて国内の専門診療第一人者にご協力をいただき、現場に不可欠な知識を体系的に学べるオンライン教材ASC Collegeを製作配信してきました。ただし、その業務に関われる時間や資金に限界があり、満足いくツールに仕上げることができていません。そこで、現在新たなシステム開発に取り組んでいます。病院内でスタッフが共通の診療知識を持ち、そしてそれを使える環境を目指しています。施設内の獣医師同士で同じ医療が共有されていれば、スタッフはもちろんのこと、来院するご家族が安心します。また獣医学生やベテランが就職や転職、あるいは復職する際、パートであろうとフルであろうと、診療知識のベースが共有されていれば、医療格差という大きな不安から解放されます。どうぶつ医療者が時間をかけて投資してきた自分の価値や存在を遺憾なく発揮することができます。これによって、どうぶつのご家族と医療者がともに医療ストレスから解放され、双方で安心できるどうぶつの健康に向き合える関係になることを願っています。もちろん今時、大量の知識を自分の頭に詰め込む必要はありません。またあらゆる資料から抜粋した自分メモをつくる必要もありません。この教材は勉強だけでなく、学んだ内容を診療の現場でサクサク使えるようになっています。端末をつかって検索で必要な箇所を引き出し、確認はもちろんのこと、ご家族への説明ツールとして使えます。もちろんお忙しい先生が、むりなく学び、そして使えるプログラムや学習方法をご用意しています。今回の事業が決して花火のようなお祭り事業ではないことを示すために、先ほど触れたように今回永田の個人ではなく合同会社を設立しました。なんとありがたいことに、どうぶつを介した社会貢献に興味を示したうちの娘も本事業に参加してくれました。将来の発展が期待できる持続可能な環境が整いました。今年8月に、「ASCK(アスク)」という名前でお披露目の予定です。聴診器と同じように動物医療になくてはならない必須アイテムになることを祈念しています。

本日はありがとうございました。今後の発展を期待します。

  • インタビュー:2022年4月25日、東京都のシェアオフィスWeWork ジ アーガイル アオヤマにて