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農研機構は、2021年3月23日、経営体強化プロジェクトとして行われている「北海道における花粉交配用ミツバチの安定生産技術の開発」の成果を発表した(「セイヨウミツバチを夏のストレスから守る」)。
研究概要
- 殺虫剤曝露が生じやすいと考えられる水田近傍に実験用の養蜂場(10個の巣箱)を設置し、そこから約300m離れた遊休地に緑肥・景観作物としても使われるシロガラシを栽培(0.3ha)した。シロガラシが花をつけている間、そこにセイヨウミツバチを引きつけることで、水田の害虫防除で散布される殺虫剤の影響を減らすことができるのかを確かめる実験を行った。
- 花畑の誘引効果と比較するために、水田で殺虫剤を散布する間(24時間)のみ巣箱を網(働きバチが通り抜けられない約2mmメッシュ程度の防風ネットを使用)で覆い、働きバチが採餌に行けなくすることで曝露しない試験も実施した。
- 導入したシロガラシを訪花した働きバチの背中にICタグ(2×3mm角、厚さ0.5mm、重さ3mg)を貼り付けて識別し、巣箱の入り口に設置したICタグの読み取り装置で、識別した働きバチの出入りを計測することで、巣箱ごとのシロガラシ利用程度を推定した。
- シロガラシを利用していた働きバチが多い巣箱ほど、殺虫剤散布日とその2日後までに確認できた各巣箱前の死虫数は少ない結果になり、シロガラシに働きバチを引きつけることで、殺虫剤曝露の影響を低減できることが示された。
- 殺虫剤散布した水田周辺に飛来しないように網で覆った巣箱でも死虫は少ない結果となったが、網掛けなしでシロガラシをとくに多く利用していた巣箱のほうが、死虫数が少ない結果になった。これは、網掛けした間、餌や冷却用の水を取りに行けないため、炎天下においた巣箱が熱などのストレスを受けた可能性が示唆された。また、網掛けした4つの巣箱で比較してもシロガラシを多く利用していた箱ほど死虫数が少なく、シロガラシから花粉や蜜を多く収集できた巣箱ほど熱ストレスに強かったのではないかと考えられる。
- 近傍の水田で殺虫剤が散布されてから半日程度遅れて巣箱前で確認できた死虫の数が増えはじめ、翌朝にピークを迎えた後、散布前と同程度の死虫数におさまった。死因は特定できなかったが、殺虫剤散布後に急激に死虫数が増えたのは殺虫剤曝露の影響と判断した。
発表論文:
- Satoru Okubo, Atsushi Shoji, Kiyoshi Kimura, Nobuo Morimoto, Mikio Yoshiyama
- Effectiveness of floral enhancement in reducing honeybee exposure to insecticides.
- Entomology and Zoology. https://doi.org/10.1007/s13355-021-00727-9