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■野生動物の法獣医学の体系整備に向けて 酪農学園大学が冊子を発行

2021-03-01 12:11 | 前の記事 | 次の記事

『酪農学園大学野生動物医学センターWAMCに依頼された死因解剖等法獣医学に関わる報告集』

酪農学園大学社会連携センターは、2021年3月1日、冊子『酪農学園大学野生動物医学センターWAMCに依頼された死因解剖等法獣医学に関わる報告集』を発行した。

編集は同大学教授の浅川満彦先生と釧路市動物園学芸員の吉野智生先生。2人の先生を中心に発表された論文等を1冊にまとめたもので、38の論文等が収載されている。

その内訳は以下の通り。

  • 概要紹介 6
  • 野鳥(スズメ目)の解剖記録 11
  • 野鳥(スズメ目以外)の解剖記録 12
  • 流通過程や家屋内での発見事例 4
  • 体の一部あるいは体毛の鑑定事例 5

酪農学園大学に野生動物医学センター(WAMC)が設置されたのは2004年。野生動物や動物園動物を対象とする寄生虫病を含む感染症の病原体診断・疫学の調査・研究が設立の目的であったが、傷病鳥獣、そして野生鳥獣の死体が持ち込まれるようになった。

本来は死因の特定は病理学分野ではあるが、野生動物の死体は腐敗や変性が激しかったり、死体がごく一部のみであったりと、病理学のみではとらえきれないものが多い。それらの死因究明や寄生虫、微生物調査をWAMCでは精力的に取り組んできた。

路上は見通しがよく、発見される死体は路上にあったものが多いとのことである。しかし、だからと言ってそれらのすべてが交通事故というわけではない。事故にあっても、そこから離れていく個体もあるし、何らかの致命的な原因を抱えた個体が路上で息絶えることもある。死因を特定するのは一筋縄ではいかない。そして解明しなければならないのは、死因のみではなくその個体からとれる微生物情報など多岐にわたる。

法医学では確立している死体現象(経時的変化など)は、野生動物では分析化学としての標準がないとのこと。それを掲載論文の筆者は「学問展開の動機が欠如しているため」と嘆く。しかしこの冊子にはそれら情報も掲載されており、野生動物の死体を科学的にとらえていくことの端緒となるであろう。豚熱や鳥インフルエンザ、狂犬病と家畜疾病や動物と人の共通感染症の観点から、野生動物のサーベイランスやモニタリングが開始されている。また、福岡県ではワンヘルスの観点から家畜保健衛生所が改組され、野生動物も取り扱うようになる。死因解析は保全医学とも密接にリンクし、われわれの生活にもかかわっていくことであり、その発展が期待される。国をはじめとする行政機関にもハード、ソフト面共に取り組んでもらいたいし、WAMCがその中核となる機関としてさらに発展していくことを願うものである。

貴重な1冊がまとめられたと感じる。

なお、冊子の最後のカテゴリーに掲載されているのは体毛の鑑定であるが、強盗事件で使用されたタオルに付着した毛(警察からの依頼)、旧日本軍用の防寒外套・靴、交通事故車両に付着した毛(保険会社から依頼)と、その内容は推理小説のような感もある。

  • 問合せ:浅川満彦先生
    E-mail askam(アットマーク)rakuno.ac.jp