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■細胞を常温乾燥保存する技術の開発に向けて 農研機構

2021-02-12 12:31 | 前の記事 | 次の記事

実験の参考図。乾燥・再水和する過程で、ネムリユスリカは代謝を切り替え、苛烈な乾燥ストレスから身を守る物質を合成している。新たに発見された事実はマゼンダ色で示される。

農研機構生物機能利用研究部門、理化学研究所、カザン大学(ロシア)を中心とする研究グループは、2021年2月3日、干からびても死なない生き物であるネムリユスリカが、乾燥・再水和(再び水に浸される)過程で蓄積する物質を同定し、その役割を解明したと発表した(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/138265.html)。この物質を利用することで、細胞の常温乾燥保存技術開発の扉を開くと期待できる。

研究グループは、ネムリユスリカ幼虫で乾燥特異的に蓄積する物質を網羅的に調べ、その解析で得られた物質の役割を解析した。解明された成果の概要は以下の通り。

§乾燥過程

  • トレハロースを蓄積し、細胞膜や蛋白質を安定化する。
  • 乾燥過程で生み出される老廃物を、キサンツレン酸やアラントインのような生体に毒性がない物質として蓄積し、生体に害が及ばないようにする。
  • クエン酸とAMPを蓄積する。

§再水和過程

  • 蓄積したクエン酸とAMPを利用し、再水和時に必要なエネルギーを得るための急速なATP合成を実現する。
  • 蓄積したトレハロースをグルコースに分解する。蘇生した幼虫のエネルギー源として利用すると同時に、ペントースリン酸経路を活性化させることで、幼虫の効果的な回復をサポートする抗酸化活性の駆動源となる。

今後は、乾燥特異的に蓄積していた物質を細胞に導入する技術や、代謝経路をゲノム編集で調節することで、細胞や組織の常温乾燥保存技術の構築を目指す。

  • 発表論文:
  • Ryabova, A., Cornette, R., Cherkasov, A., Watanabe, M., Okuda, T., Shagimardanova, E.,et al.
  • Combined metabolome and transcriptome analysis reveals key components of complete desiccation tolerance in an anhydrobiotic insect.
  • Proc Natl Acad Sci USA,117(32),19209.19220.
  • first published July 28,2020
  • http://doi.org/10.1073/pnas.2003650117