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World Small Animal Veterinary Association(WSAVA)は、WebサイトのHighlighted NewsにWSAVAメンバー向けに「The New Coronavirus and Companion Animals(新型コロナウイルスと伴侶動物)」と題した解説を掲載している(https://wsava.org/news/highlighted-news/the-new-coronavirus-and-companion-animals-advice-for-wsava-members/)。その内容を紹介する(2020年2月9日に更新されたものの翻訳)。翻訳はWSAVA the Translation Committeeメンバーの安田隼也先生。
中国で人の肺炎が発生し、世界中で新型コロナウイルス(2019-nCoV)が公衆衛生上のリスクになっていると警戒されている。新型コロナウイルスは最初に2019年12月に中国の武漢で診断された原因不明の肺炎症例が確認された後に見つかったもので、旅行者によってその他大勢の国に拡散した。当初はヒト-ヒト感染が成立するという証拠は明確ではなかった。しかしながら、直近数週間で家族観や濃厚接触した医療従事者のヒト-ヒト感染が確認されている。
2020年1月に世界保健機関(WHO)はこの新型ウイルスを暫定的に新型コロナウイルス(2019-nCov)と命名した。中国やそのほかの地域で日々新しい症例が報告されていて、流行の発生源は明確ではないものの、武漢にある海産品と生きた動物が取引される「ウェットマーケット」の武漢華南海鮮卸売市場との関連性が指摘されている。現在ではウイルスのレゼルボアとして特定の動物になるという証拠がないため、さらなる調査が行われている。
コロナウイルスはコロナウイルス科に属している。アルファおよびベータコロナウイルスは通常哺乳類に感染し、ガンマおよびデルタコロナウイルスは通常鳥類や魚類に感染する。犬で軽度の下痢を起こす犬コロナウイルスおよび猫伝染性腹膜炎(FIP)の原因となりうる猫コロナウイルスは、いずれもアルファコロナウイルス属である。ベータコロナウイルスに属する2019-nCoVが発見されるまでは、6種類のコロナウイルスしか人に感染し呼吸器症状を引き起こすことが知られていなかった。この中にはSARS(サーズ、重症急性呼吸器症候群、2002年~2003年に同定)や中東呼吸器症候群(MERS、2012年に同定)が含まれる。2019-nCoVはSARSやMERSに遺伝的に近いものの、これらはコウモリ由来のベータコロナウイルスである。新型コロナウイルスがSARSやMERSと同じような動きを示すかは分からないが、これらの2種類のコロナウイルスから得られた教訓は役立つだろう。
直近数週間でウイルスの病因論、感染したウイルスの分離、診断方法の開発など様々な進展が見られた。しかし、未だに疑問のまま答えが見つからないことも多い。
最新の情報や人の感染に対するアドバイスはWHO(https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019)やCDC(アメリカ疾病予防管理センター)のウェブサイト(https://www.cdc.gov/coronavirus/about/index.html)から確認することができる。動物に関連する情報は以下のサイトから見られる(https://www.oie.int/scientific-expertise/specific-information-and-recommendations/questions-and-answers-on-2019novel-coronavirus/)。
今回の流行に対応するため、WSAVAのScientific and One Health CommitteesはカナダのGuelph大学Scott Weese教授の力を借りてWSAVAのメンバー向けに以下の想定質問集を用意した。私たちは中国で伴侶動物が遺棄されることを危惧し、この指針が不安がっている飼い主と相対する獣医師に活用してほしいと願っている。
動物病院やそのスタッフをコロナウイルスからどのように守ればよいか?
以下のサイト(2019-nCoV Prevention and Treatment)に、新型コロナウイルスのような呼吸器症状からどのように自分たちを守るかについて書かれている。
2019-nCoVは畜産動物に感染するか?
現時点では伴侶動物やそのほかの畜産動物に今回の新型コロナウイルスが感染するというエビデンスはない。しかも、伴侶動物や畜産動物が人の新型ウイルス感染源と疑われるようなエビデンスは現時点ではない。本件は急激な展開を見せることがあるため、新しい情報が入り次第アップデートされる。
私自身が病気の場合、伴侶動物やそのほかの動物との接点を減らすべき?
病気の間は動物を扱わないように。伴侶動物やそのほかの畜産動物が2019-nCoVに罹患したという報告はないものの、特定のコロナウイルス型は動物に疾病を引き起こし、人と動物の間で伝搬する。更なる情報が入るまでは動物との接触を避け、動物に近づく場合はマスクを着用するか、疾病を伝播する可能性から守るために動物をケアしてほしい。
もし自分の伴侶動物やそのほかの動物が病気になり、自分の周辺に新型コロナウイルスに罹患している人がいる場合はどうすればよいか?
ご自身の伴侶動物やそのほかの動物が病気になった場合、新型ウイルスに罹患した人に接触した病気の動物がいる、とかかりつけの獣医師に連絡してほしい。動物病院のスタッフ間で話がまとまるまでは動物病院に動物を連れて行かないこと。新型コロナウイルスに罹患している人との接点について詳細に動物病院のスタッフに伝えてほしい。
もし自分の伴侶動物やそのほかの動物が病気の人と接点をもった場合、動物が新型コロナウイルスをさらに別の人に媒介することはあるか?
動物が新型コロナウイルスに感染するかも分からない。また、発症するかどうかも現時点では分からない。現時点では伴侶動物やそのほかの畜産動物に今回の新型コロナウイルスが感染するというエビデンスはない。しかも、伴侶動物や畜産動物が人の新型ウイルス感染源と疑われるようなエビデンスは現時点ではない。本件は急激な展開を見せることがあるため、新しい情報が入り次第アップデートされる。
今回の新型ウイルスに感染した人と動物が接触をすることで心配することは何か?
新型コロナウイルスは動物が起源であるものの、現在ではヒト-ヒト感染によって拡大している。ヒト-ヒト感染は主に感染した人の咳や鼻水から出る呼吸器の飛沫が主な感染源と考えられている。現段階ではどの程度ヒト-ヒト感染が容易または安定的に発生しているか分からない。詳しくは以下のページを参照してほしい(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/about/transmission.html)。より重要なことは、犬や猫が新型コロナウイルスに罹患するというデータは現時点ではないということである。
新型ウイルスの流行地域にいる動物には何をすればよい?
現時点では伴侶動物やそのほかの動物が新型コロナウイルスに罹患するというエビデンスはない。本件は急激な展開を見せることがあるため、新しい情報が入り次第アップデートされる。伴侶動物やそのほかの畜産動物が2019-nCoVに罹患したという報告はないものの、特定のコロナウイルス型は動物に疾病を引き起こし、人と動物の間で伝搬する。更なる情報が入るまでは動物との接触を避け、動物に近づく場合はマスクを着用するか、疾病を伝播する可能性から守るために動物をケアしてほしい。しかし、新型コロナウイルスに感染していると診断された人を動物に近づけないことで動物を守り疾病が伝搬する潜在的な可能性を無くすことができる。
新型コロナウイルスの感染リスクがあるため獣医師は犬コロナウイルスのワクチンに対するワクチンを使用し始めたほうがよいか?
一部の地域で利用可能な犬コロナウイルスのワクチンは消化器症状を起こすコロナウイルスに対する防禦を意図したものであって呼吸器症状を防禦するために認可されていない。
獣医師は今般の発生があったため新型コロナウイルスに対する何らかの防禦を期待してこのようなワクチン接種を行おうと考えるべきではない。現在流通しているワクチンが新型コロナウイルスに対する交叉的な防禦能を示すというエビデンスは全く存在しない。なぜなら消化症状を起こすものと呼吸器症状を起こすものでは型が明確に異なるためである。
現在では犬に呼吸器症状を起こすコロナウイルスに対する利用可能なワクチンは存在しない(WSAVA Vaccination Guidelines Groupより)。