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■養豚汚水浄化処理施設からの温室効果ガス排出を大幅削減

2019-07-25 11:57 | 前の記事 | 次の記事

炭素繊維リアクター(提供:農研機構)

従来の活性汚泥法と炭素繊維リアクターの付着汚泥の違いの概念図(提供:農研機構)

 農研機構は、2019年7月23日、同機構が開発した炭素繊維リアクターを使って肥育豚6,000頭規模の農家施設で実証試験を行い、温室効果ガスの排出(大部分が一酸化二窒素)を約80%削減できることを確認したと発表した。堆肥化や汚水浄化など家畜排せつ物の処理・管理過程で発生する温室効果ガスは、二酸化炭素等量で年間630万トンと、農業系排出の10~15%を占めると算定されており、これらの排出を削減する技術が求められている。同機構では2015年に養豚汚水浄化処理施設からの温室効果ガス排出を大幅に削減できる炭素繊維リアクターを開発していた。

 実証実験を行ったのは岡山JA畜産株式会社の荒戸山SPF農場(肥育豚6,000頭規模)。その農場の汚水浄化処理施設に導入し、実際の削減効果を検証した。

 実験は2016年~2017年に行い、リアクター導入前(2016年10月~2016年11月)と導入後(2016年12月~2017年1月)を比較。その結果、処理水中窒素量(全窒素:TN)あたりの一酸化二窒素の発生量(一酸化二窒素排出係数)は、導入前の約4%に対し、導入後は0.5%へと、大幅に削減した。なお、浄化処理で発生する温室効果ガスには、99%以上を占める一酸化二窒素のほかに、1%以下のメタンも含まれるが、リアクター導入によるメタン発生量には大きな変化はなかった。

 リアクター導入前(2016年10月~2016年11月)と導入後(2016年12月~2017年1月)では処理水中に含まれる窒素量が異なるため、単純な比較はできないが、この結果から、同リアクターの導入により、既存施設の温室効果ガス発生量は1/5程度に削減できると推定された。同リアクターを全国の処理施設に導入できれば、温室効果ガスの排出を二酸化炭素等量で年間60万トン削減(現行排出量の年間約77万トン二酸化炭素等量から、約80%削減)できると試算される。

 同リアクターを用いる処理方法は、従来の活性汚泥法と同等の有機物処理能力を維持しつつ、窒素除去効果の向上も期待できる。また、使用した炭素繊維リアクターの製作価格は1式あたり約100万円で、この浄化施設では後段の反応槽に3式の設置で削減が可能になる。

 現在の実証試験を継続し、さらに国内3か所の浄化処理施設で実証実験を行い、窒素除去効果を検証するとともに、リアクターの改良や低価格化などを進める。ライフサイクルアセスメントによる総合的な環境評価を行い、国際的にも認証された削減活動として日本国インベントリに掲載されるようデータを集積し普及に努め、さらに、日本同様、集約的な家畜生産を行っている東アジア各国に本技術を広く周知し、各国での利用を目指すとのこと。