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日本獣医輸血研究会の第1回学術講習会が2019年5月29日、堀場製作所 東京セールスオフィス内で行われた。
同研究会の前身である日本小動物血液療法研究会は2012年に設立され、犬と猫の献血や採血の指針などを作成してきたが、活発な活動や積極的な会員募集は行ってはこなかった。輸血療法の正しい知識や技術の普及に関する活動などをさらに行っていくために、2018年に発展的に改組し日本獣医輸血研究会となった。
今回行われたのは新組織になってから第1回目の学術講習会。会場が満員となる100名ほどが集った。20名ほどの動物看護師も参加した。
浦安中央動物病院の周藤行則先生の司会のもと、まず「輸血用血液製剤の準備」のテーマで3先生が講演した。
- 「輸血用血液製剤作製の為の設備」「設備の導入方法」
- 鈴木裕子先生(Pet Clinicアニホス)
- 「輸血用採血バッグの使用方法」「輸血採血方法~失敗しないテクニック~」
- 長島友美先生(ACプラザ苅谷動物病院)
- 「クロスマッチ用セグメントチューブ作製方法」
- 中村知尋先生(日本小動物医療センター)
続いて麻布大学の久末正晴先生による「輸血の副作用」、JAM目黒病院(2019年4月に開院)の小林 輔先生による「献血対象動物」の講演が行われ、そして最後に会長の内田恵子先生が、今までの経緯などについて述べた。
鈴木先生は「採血」「分離」「保存」「輸血」の4ステージそれぞれで使用する器具器材を価格を含めて具体的に紹介した。高速冷却遠心機については、「血液バッグを回すために使用する」ということを販売者に伝えて器機を選定することが大事と述べた。輸血に関わる器具器材は、獣医療のメーカーやディーラーなどが情報をあまり持っていないことも多く、日本獣医輸血研究会がその情報を発信していきたいと述べた。続く長嶋先生は採血バッグ(手に入るのはテルモ株式会社の製品のみとのこと)の使用法、注意事項を詳細に解説した。そして中村先生はクロスマッチ用セグメントチューブ作製方法を動画を用いて解説した。
久末先生は輸血の副反応の種類とその対処法を講演した。輸血にかかわった事例が二次診療施設である麻布大学に持ち込まれる例がある。免疫介在性溶血性貧血(IHA)での免疫抑制が効いていない状態での輸血、輸血による医原性の肺水腫の事例などを紹介した。そして発熱を含めてモニタリングを行うことが大切と述べた。輸血の適合に関する最新情報も述べた。また、日本獣医輸血研究会では「I型過敏反応を防ぐために輸血開始30分前のH1ブロッカー投与を推奨している」と述べた。
小林先生は採血用のドナーの呼びかけのことや、輸血に関するガイドラインを紹介した。それらは同研究会のホームページ(https://www.jsvtm.org/)に掲載されており、また一般財団法人生物科学安全研究所のホームページに掲載されている「犬猫を対象とした輸血用血液製剤の製造及び品質管理に関するガイドライン(案)について」(http://www.riasbt.or.jp/about/contribution/blood-products-gl)も参考にして欲しいと述べた。
最後に内田先生が研究会が取り組んできた血液システムの発展の経緯や問題点などにふれた後、「これから取り組まれる先生方は背伸びをする必要はありません。今正しいとされている知識を学んで欲しい。我々が2012年から模索してきた結果である今の状態をベースにして、アップデートしていく情報も研究会のホームページなどから吸収し、それぞれの動物病院に合ったシステムを構築して欲しい」と熱く語った。
講習会の参加者にはポイントカードが配られた。講演会等に参加すると1ポイント。カードがいっぱいとなる6ポイントをとると修了書が発行される。そのうちの1ポイントは日本赤十字社の製造所の施設見学(東京都江東区辰巳)になる予定。また、同研究会では採血の動画を作成し、会員限定でホームページで閲覧できるようにする構想もある。
なお、輸血に関する詳細な記載は、株式会社ファームプレスが発行している「MVM」誌の臨時増刊号としてまとめられ、2020年4月に発行される予定。
関連洋書:Sink/Practical Transfusion Medicine for the Small Animal Practitioner, 2/E(2017,Wiley-Blackwell)
https://buneido-shuppan.com/specialsales/newlypublishedyosho/2017038003