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■世界初、黒毛和種子牛から下垂体前駆細胞株の樹立に成功

2026-10-28 16:57 掲載 | 前の記事 | 次の記事

鳥取大学は、2026年8月28日、同大学農学部共同獣医学科/染色体工学研究センターの樋口雅司准教授らの研究グループが、下垂体前葉に存在する性腺刺激ホルモン分泌細胞(以下、ゴナドトロフ)へ分化する「下垂体前駆細胞」に該当する細胞株を黒毛和種牛において世界で初めて樹立したと発表した(参照:鳥取大学「お知らせ」)。

この成果により、これまで産業動物ではできなかった細胞レベルでのゴナドトロフ供給メカニズムの解析が可能になるため、将来的に黒毛和種牛の繁殖能力向上への貢献が期待される。

研究成果は、2026年7月31日に「Biology of Reproduction」誌で公開された。

哺乳類の生殖機能はHPG軸によって厳密に調節されており、特に下垂体前葉のゴナドトロフから分泌される性腺刺激ホルモンが重要な役割を担っている。つまり、ゴナドトロフ数と1細胞から分泌されるホルモン量が繁殖能力と深く関連する。一方、ゴナドトロフは既に運命が決まった細胞でほとんど分裂しないため、まだ運命が決まっていない下垂体幹細胞や前駆細胞が分化してゴナドトロフ数を調整していると考えられている。しかしながら、過去の知見は下垂体の摘出や遺伝子組換え実験が容易なマウスなどのモデル動物に限られており、非モデル動物での研究は全く進んでいなかった。

研究グループは以前の研究において、黒毛和種牛から下垂体幹・前駆細胞を分離する方法を確立したが、その集団の中からゴナドトロフへ分化する能力をもった前駆細胞を選抜するには至っていなかった。また、下垂体幹細胞とホルモン分泌細胞の中間に位置する前駆細胞は、幹細胞のような活発な増殖能力が無く、元の組織に近い性質のまま体外培養で維持する手段も確立されていない。

そこで、下垂体前駆細胞の維持とゴナドトロフへの分化の切り替えが可能な細胞株の構築を目的に研究を行った。まず、黒毛和種子牛の下垂体前葉細胞に温度感受性SV40T抗原(SV40T)を導入し、複数の非ホルモン産生細胞株を樹立した。これらの細胞株は、SV40Tが発現する温度(33℃)で培養すると同じ性質を維持したまま細胞増殖が進んだ。temperature-sensitive Calf Anterior Pituitary(tsCAP)細胞と名付けたこれら細胞株のうち、tsCAP4細胞は下垂体特異的転写因子PROP1を発現していることから下垂体前駆細胞の性質をもつことも証明された。次に、牛胎子血清入りの培地に懸濁したtsCAP4細胞をSV40Tが抑制される温度(37℃)で三次元培養したところ、細胞増殖が停止し、一部の細胞が性腺刺激ホルモン陽性になった。以上の結果から、tsCAP4細胞はゴナドトロフへの分化能力をもつ下垂体前駆細胞株であることが明らかになった。

今回の研究では、条件的に細胞増殖と分化の切り替えが可能な子牛下垂体前駆細胞株の構築に成功した。これは下垂体前駆細胞を実験室レベルで安定的に利用できるようにした点で大変重要な成果。また、ホルモン分泌細胞への分化メカニズムを調べるツールとしても有用。今後は、tsCAP4細胞の分化誘導系を用いてゴナドトロフ供給メカニズムの解明とその数を調節する因子の同定を目指して研究を進める。