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「野生動物と牛の飼養衛生管理ネットワーク in HOKKAIDO(略称:ネットワーク2026)」(幹事・コーディネーター 櫻井健二先生)は、2026年8月30日、オンラインで第1回ウェビナーを開催した。
「ネットワーク2026」は、野生動物と家畜の共存をはかるために、両分野の科学的知見や技術、ノウハウ、現場での取組み等をセミナーや勉強会を通じて情報共有し、連携を深めていくために設立された。
第1回目の集会は、日曜日の午前中にオンラインで開かれ、まず、櫻井健二先生が「ネットワーク2026」の設立趣旨を述べた。次いで5分野からの講演が行われた。
- 野生動物と家畜の感染症
秋庭正人先生(酪農学園大学教授) - 野生動物管理について-総論
鈴木正嗣先生(岐阜大学名誉教授/エゾシカ協会代表理事) - 外来種問題の現状からみた持続可能な社会構築への課題-IPBES侵略的外来種評価から考える生物多様性保全-
池田 透先生(北海道大学名誉教授) - 生産現場におけるバイオセキュリティについて
竹原一明先生(東京農工大学名誉教授/公益社団法人畜産技術協会参与) - フィールドデータを用いたリスク評価手法とリスク管理の提案へ
磯田典和先生(北海道大学准教授)
秋庭先生は、まず畜産経営が厳しいなか、家畜感染症の発生も大きく影響すると述べ、その規模感を知ってほしいと、被害額の例を紹介した。野生鳥獣による農作物の被害額は、2023年度で164億円、2024年度で188億円である。家畜感染症においては、2010年に発生した宮崎県の口蹄疫では、清浄化した後も余波は続き、2014年までの被害額は約2,350億円と甚大なものであった。豚熱は2018年の発生から2020年1月までに約50億円、ヨーネ病は北海道で年間約10億円と影響は大きい。野生動物が媒介する主な家畜感染症を一覧表で示し、次いで代表的なものとして、豚熱、高病原性鳥インフルエンザ、ヨーネ病、牛サルモネラ症について解説した。そして伝播防止にはバイオセキュリティが重要であり、独立行政法人家畜改良センターのWebサイトが参考になると紹介した(参照:「家畜の衛生管理」)。
鈴木先生は、まず野生動物に関連して、農林水産被害、生物多様性の危機、感染症の媒介、市街地出没、人身事故、自動車との衝突事故、列車支障、土砂災害など多様なリスクがあり、その現状を定量化、数値化してイメージを共有したいと述べ、エゾシカと自動車や列車との事故の被害、日本の森林の状況、野生動物の分布域の拡大、ハンターの状況などを具体的に解説した。人口縮小が根本にあり、「動物をどうこうする」ではなく顕在化していく「野生動物に起因する多様なリスク」を社会問題としてとらえる必要があると訴えた。被害を軽減する効果的な捕獲の仕方、専門家が行政の現場に必要なことも述べ、「野生動物と自然を人から守る」という従来の考え方のみでなく、「野生動物から自然と人を守る(野生動物から人と自然,国土を守る)」という考えを持つべきであり、大学でもそう教育してきたと話を締めくくった。
池田先生は、外来種問題は人と生物の様々な問題が凝縮しており、社会的、思想的なことも配慮しなければならないとまず述べた。そして、自身が関わっている政府間組織である「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォームIntergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services:IPBES」のことを紹介した(参照:環境省「科学と政策の統合(IPBES)」)。IPBESは2012年4月に設立され、2026年3月時点で153か国が加盟し、科学的評価、能力養成、知見生成、政策立案支援をの4つの機能を活動の柱として、地球規模の環境評価や政策提言を実施している。
池田先生(Coordinating Lead Authors)を含む多くの研究者が関わり作成された報告書「侵略的外来種とその管理に関するテーマ別評価」を2023年に公開した。
- 「IPBES Invasive Alien Species Assessment: Full report」(890頁)
- 簡易版の日本語訳「IPBES侵略的外来種とその管理に関するテーマ別評価報告書政策決定者向け要約」(52頁)
その内容は世界中の侵略的外来種に対して行われた最も包括的な評価となっている。
侵略的外来種は世界で3,500種で、自然、経済、食料安全保障、人間の健康に大きく地球規模に影響を及ぼし、そのコストは年間4,230億ドル/年を超えると推定されている。侵略的外来種はいきなり現れる訳ではなく、人為的に運ばれる。ただ、管理に成功した事例もあり、希望はある。予防が一番の対応策で、早期発見・早期対応で根絶を目指す。根絶が実現的ではなくなると、長期的な管理となり、国際協力も必要である。日本においてはペット由来の外来種が多く、それは他国とくらべると例外的なこと。この恥ずかしい状況を改善すべきである。
竹原先生は、公益社団法人中央畜産会の「畜産分野の消毒ハンドブック」と「畜産農場バイオセキュリティ強化マニュアル」の2冊が、畜産関係者に必携であると紹介した後、バイオセキュリティのことを詳述された。
特に長靴・衣類の交換と「マイクロMIX」(逆性石鹸とマイクロ水酸化カルシウムの混合液による消毒)の有用性を強調された。畜舎・鶏舎の消毒(化学的)と畜舎・鶏舎ごとの衣類・長靴の交換(物理的)が重要であり、農場スタッフ-農場経営者・家畜保健衛生所-農場場・獣医師の皆でアイデアを出し合い取り組むことが肝要で、そのなかで獣医師は指導的な役割を担わなければならない。
磯田先生は、リスク管理について、学問分野と行政・民間の方とで捉え方に乖離があるのが現状であるとし、多分野の人たちが共通認識とするためのリスク分析の解説を行った。
リスクを許容できるかどうかを判断し、そして許容できるまでリスクを下げることが、リスク管理の根幹であると述べた。
リスク評価の例として、カラスにおけるHPAIV感染のリスク、養豚ネットワークを用いたリスク管理、血清抗体の分布から見るBVDVの浸潤、リスクマトリックスによる定量的評価を具体的に解説された。
「ネットワーク2026」は第2回ウェブセミナーの開催を決定している。
- 日時:2026年9月28日(月)19:00~20:30
- 形式:Zoom
- 内容:「マダニとマダニ媒介性牛小型ピロプラズマ症〜北海道の現状と野生動物との関わり〜」
- 横山直明先生(帯広畜産大学)
- 対象:メンバー(メンバー登録無料)
- 参加費:無料
- 詳細:https://www.network-hokkaido.com