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■卵子とその周辺細胞とのコミュニケーションを促す橋渡し構造の中に「微小管」を発見 早稲田大学・麻布大学

2026-05-21 16:26 掲載 | 前の記事 | 次の記事

卵子周囲の細胞から卵子に向けて伸びる突起のほとんどに微小管が含まれていることを発見

野生型ではTZP突起の内部に微小管が含まれ、Camsap3欠損マウスでは微小管の短縮化にともなうTZP突起の減少が見られた

TZP突起の先端には2種類ある:(中央)TZP突起の先端が卵子内に接触する例、(右)先端が卵子に融合して微小管が侵入したTZP突起の例「出典: Aikawa et al.,2026(今回の発表論文)」

麻布大学は、2026年5月18日、早稲田大学と麻布大学の共同研究チームが、卵子とその周囲の細胞とをつなぐ突起構造の内部に微小管が高頻度で存在することを超解像顕微鏡技術により発見したと発表した。また、その突起構造を形成するためにはCamsap3タンパク質が重要な役割を果たすことも明らかにした。(参照:麻布大学「プレスリリース」)。

不妊の原因のひとつである卵子成熟の欠陥を治療することはできないのか?そのために欠かせないのは、卵子の成熟がどのように起きるのかというメカニズムを解明すること。この課題に迫る発見。

研究成果は、2026年4月28日(火)に「iScience」で公開された。

  • Camsap3-Mediated Microtubules Maintain Transzonal Projections Essential for Soma.Germ Communication during Ovarian Follicle Maturation in Mice
  • 相川皓洋(早稲田大学大学院先進理工学研究科生命医科学専攻)
  • 鶴巻孝夫(早稲田大学大学院先進理工学研究科生命医科学専攻)
  • 倉永英里奈(京都大学大学院薬学研究科創発医薬科学専攻)
  • 伊藤潤哉(麻布大学獣医学部動物繁殖学研究室、麻布大学大学院獣医学研究科)
  • 戸谷美夏(早稲田大学大学院先進理工学研究科生命医科学専攻、京都大学大学院薬学研究科創発医薬科学専攻)
  • 佐藤政充(早稲田大学大学院先進理工学研究科生命医科学専攻、早稲田大学構造生物・創薬研究所)
  • 「iScience」2026年4月28日

ヒトやマウスなど哺乳類の卵子は、卵巣内でたくさんの顆粒層細胞に取り囲まれた状態で成熟する。卵子の成熟に異常があると不妊につながるため、そのメカニズムを解明することは生殖医療の観点から重要。

顆粒層細胞は卵子に様々な分子を届けることで卵子の成熟を促すと考えられているが、具体的な分子メカニズムはわかっていない。卵子と顆粒層細胞の間には透明帯という領域が存在する。透明帯を超えて顆粒層細胞から卵子に直接分子を送り届けるために、顆粒層細胞はTranszonal projection(TZP)と呼ばれる突起状の構造を伸ばす。これが卵子まで到達することで、卵子の成熟に必要な物質を送り届けると考えられている。

これまで、TZP突起の内部には、アクチンと呼ばれる細胞骨格の一種が内包されることがわかっていた。これに対して、異なる細胞骨格である微小管はTZP突起のうち5%程度にしか存在しなかったため、重要な機能を担うとは考えられていなかった。

今回の研究では、これまでの定説とは異なり、TZP突起構造の中に微小管が頻繁に存在することを発見し、これが卵子成熟に大きな役割を担うことを明らかにした。

着想の経緯は、戸谷美夏博士(京都大学)が以前から研究していた微小管結合タンパク質Camsap3。一般的にCamsap3は細胞内の微小管を安定化させる機能を持ち、マウスの生体内では腎臓や卵管、気管、脳などの幅広い組織で重要な役割を担う。今回、Camsap3の遺伝子欠損(ノックアウト)マウスのメスは、排卵せず不妊を示すことを発見した。不妊の原因に迫るために卵巣組織を解析したところ、Camsap3欠損マウスでは初期段階の卵子は正常に形成されていたが、排卵が近づいた後期段階の卵子はほぼ消滅しており、卵子成熟の過程に異常がある様子が見えてきた。

Camsap3欠損マウスの卵子と顆粒層細胞を観察した結果、両者をつなぐTZP突起の本数が野生型マウスと比較して約60%に減少していた。従来の研究では、TZP突起は内部にアクチン細胞骨格を含むことが知られている。これに対して、別の細胞骨格である微小管はTZP突起全体のうち約5%にしか発見されていないことから、微小管結合タンパク質Camsap3の欠損マウスにおいて、なぜ、アクチンを主体とするはずのTZP突起が異常を示すのか疑問であった。

そこで、超解像顕微鏡技術を用いてTZP突起を高精細に観察した。その結果、通説とは異なり、TZP突起の大多数(約80%)が内部に微小管を含むことを発見した。つまり、微小管結合タンパク質Camsap3を欠損すると、TZP突起内部の微小管に異常が起き、これがTZP突起の形成不全を引き起こすことがわかった。このように、微小管は従来想定されていたよりもはるかに重要な役割、つまり突起そのものを形成するために中心的な役割を果たすことが見えてきた。

さらに、TZP突起の内部で微小管とアクチンが示す形態にはいくつかのパターンが存在し、卵子成熟の段階に応じて、その形態が変化することが明らかになった。初期段階では、微小管とアクチンが並走する直線的なTZP突起が多く見られたが、卵子成熟が進むにつれて、枝分かれした複雑なTZP構造へと変化した。Camsap3はTZP突起内の微小管上に局在していたことから、Camsap3は微小管の向きや安定性を制御していると考えられる。

これまで、卵子表層に到達したTZP突起は、ギャップ結合や接着結合といった結合様式で卵子に接続することがわかっている。このような結合箇所には、アミノ酸などの低分子化合物が通れるほどの小さな穴が存在する。一方、mRNAミトコンドリアのような大きな分子はどのようにTZP突起から卵子に送られるのか不明のまま。同研究では一部のTZP突起において、微小管がTZP突起の先端からさらに伸長して卵子内部まで貫通する構造がみられた。このようなTZP突起では、TZP突起の先端が卵子の細胞膜と融合してトンネルのように貫通し、卵子の細胞質に直接つながっていると考えられる。つまり、ミトコンドリアやmRNAなどの巨大な物質を卵子内に送り届けることが容易だといえる。野生型において、このような卵子の細胞質に直接つながったTZP突起の内部にミトコンドリアが存在する様子が観察された。これらの観察結果は、TZP突起内部の微小管が顆粒層細胞から卵子に向けてミトコンドリアなどの巨大な物質を輸送するために使われている可能性を示唆している。

これらの成果は、TZP突起がアクチンを主体とする突起構造だとみなしてきた従来の理解を大きく更新するもの。同研究が微小管を内部に発見したことで、微小管がTZP突起の形成を促すこと、さらに微小管をレールとして卵子から顆粒層細胞への物質輸送が起きるという新しいメカニズムが見えてきた。

今回の研究では、超解像顕微鏡技術を用いて、従来考えられていたよりも多くのTZP突起が微小管を含んでいることが明らかになり、物質輸送の原理が見えてきた。しかし、顆粒層細胞から卵子に向けてどのような分子が輸送されているのかは、依然として明確な知見・証拠がない。研究グループでは、その輸送される分子の同定を最重要課題と捉えている。この因子が決定できれば、未成熟の卵子にそれを人為的に投与することで人工的に卵子成熟を誘導して、不妊治療につなげられる可能性がある。

§研究者のコメント

TZP突起はこれまでアクチンを主体とする細胞突起として理解されてきました。本研究では、超解像顕微鏡を用いることで従来検知できなかった微小管の存在を発見できました。本研究が卵子成熟や不妊の原因を解明する新たな基盤になるよう、研究を継続していきます。不妊の原因は男女含めて様々なものがあると考えられます。その原因を1つずつ追究していく基礎研究が、生殖医療のブレークスルーにつながると信じています。