HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事
公益財団法人 国際花と緑の博覧会記念協会は、2025年10月21日(火)、2025年コスモス国際賞受賞記念講演会を、東京大学伊藤謝恩ホールで開催した。多くの来場者がつめかけ、都内の高校生約50名や小中学生の姿もみられた。
今年の受賞者は、ニューサウスウェールズ大学生態系科学センター教授のデービッド・アンドリュー・キースDavid Andrew Keith博士。
その業績は大きく、(1)オーストラリアを対象とした植生学、生態学研究、(2)「IUCN生態系レッドリスト」確立のための国際共同研究の主導、(3)環境保全のための世界の生態系の類型化の3つに大きく分けられる。
授賞式は10月17日に大阪市・住友生命いずみホールで催され、キース博士には賞状、メダルと副賞が贈られた。
記念講演会では、まずコスモス国際賞選考専門委員長の池谷和信先生(国立民族学博物館名誉教授)が受賞者を紹介、次いでキース博士の講演、キース博士と大正大学教授の古田尚也先生との対談が行われた。
キース博士は「地球の生態系の保全」のテーマで講演。生物多様性の捉え方、その危機の状況を概説し、保全を行っていく上で、種のみでなく生態系として包括的に評価していくことの有用性について述べた。キース博士が研究を主導した生態系のリスク評価方法は、2008年に世界自然保護会議によって義務付けされ、国際自然保護連合(IUCN)に「生態系レッドリスト(Red List of Ecosystems:REL)」として採用された。RELと地球規模生態系分類は、国連生物多様性枠組みと国連国民経済計算基準に採用されている。講演では、診断プロセス例、生態系の相対的劣化度の推定、生態系タイプの分類などの具体的な紹介もあった。生態系の類型化体系を構築していくことで、相対的評価や効率的な保全が可能となる。
IUCNグローバル生態系類型化体系のサイト
- ウェブベースのマップアプリ(2020年に構築)
- 「A Global Typology for Earth's Ecosystems」
- オープンアクセスのデータアーカイブ(+空間メタデータ)
- 「Indicative distribution maps for Ecosystem Functional Groups - Level 3 of IUCN Global Ecosystem Typology」
- 現在進行中の開発「グローバル生態系アトラス」
- 「Mapping the world's ecosystems for action」
キース博士と対談を行った古田尚也先生は大正大学総合学修支援機構教授でIUCN日本リエゾンオフィス・コーディネーターを務めている。三菱総合研究所在職中に、日本人として初めてIUCNスイス本部に勤務し、2009年にIUCN日本オフィス以来、責任者として生態系を活用した災害リスク削減、自然を活用した解決策、グリーンインフラなどの持続可能な地域づくりなど、自然を活用した社会課題の解決に取り組んでいる(参考:「Nbs研究センター」)。
対談では、生態系保全と種保全を両立させていくことの重要性、生態系リスク評価をどのように行っていけばよいのかの話題となった。マングローブの保全例のようにグローバルなもの、国レベル、もっと小さな地域、例えば河川流域での取組みへの適用をどのように行っていくのか、その限界やメリットなど、話は具体例を交えて展開した。企業の関わりにも話が及び、生態系類型化体系により企業も関わりの深さを評価でき、より投資を受けることにもつながる可能性もでてくると。
最後に会場との質疑応答が行われ、高校生からの質問もあった。
コスモス国際賞は、「自然と人間との共生」という花の万博理念の継承・発展に資する研究業績に対して贈られている。この表彰を通じて、命の重要性や科学的思考の大切さを啓発している。
キース博士の「生態系レッドリスト」の概念や手法の確立、その応用・普及はまさにその理念に一致している。
