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■麻布大学と株式会社AdipoSeedsが犬の血小板製剤作製を目指した共同研究を開始

2025-09-11 16:47 掲載 | 前の記事 | 次の記事

麻布大学小動物内科学研究室の久末正晴教授、西晃太郎助教、山田陽子主任研究員、松井美咲学部生と株式会社AdipoSeedsの松原由美子取締役CSOらは、2025年9月9日に、不妊手術時に得られた犬の脂肪から採取した間葉系間質細胞(cAD.MSCs)を用いた、巨核球(血小板の母細胞)・血小板への世界で初めての分化誘導に挑戦するための共同研究を開始したと発表した(麻布大学「プレスリリース」)。

犬では免疫介在性血小板減少症(ITP)などの血小板が少ないことによる出血性疾患が頻発し、輸血が必要な症例も少なくない。しかし血小板は基本的に冷蔵保存ができず、ドナーが少ないことから供給面に多くの課題がある。

株式会社AdipoSeedsの技術は、ヒトから採取された脂肪から血小板を作り出す革新的なもの。獣医療においては、不妊手術という日常診療の延長で得られた脂肪組織を利活用することで、動物への侵襲を最小限に抑えつつ、未来型の細胞製剤を実現する持続可能なアプローチとなりうる。

現在、血小板の元となる巨核球様の細胞誘導に成功しており、今後はさらなる評価とともに製剤化・前臨床・臨床応用へと展開し、将来的には、他動物種さらにはヒト再生医療への展開も視野に入れている。

動物医療における臨床現場では、様々な原因で体内から血小板が無くなるITPや播種性血管内凝固症候群(DIC)、腫瘍関連の出血性疾患など血小板輸血が必要とされる場面が数多くある。現行の血小板供給は、ドナー犬に依存しており、以下の課題がある。

  • ドナー不足による供給不安定
  • 短い保存期間
  • 感染症リスクおよび免疫反応
  • ドナー動物への身体的負担

そこで麻布大学と株式会社 AdipoSeedsは「ドナーに依存しない血小板製剤の開発」を目指す共同研究を開始した。
研究では、「不妊手術時に得られた脂肪組織から分離された cAD.MSCs(脂肪由来間葉系間質細胞)」を用いる。これは新たな外科的侵襲を伴わずに得られる高い倫理性・低侵襲性を有する細胞ソースであり、動物福祉の観点からもきわめて優れた再生医療材料と位置づけられる。
現在、共同研究の成果として血小板を作り出す元の細胞である巨核球様細胞の誘導に成功し 、実際の臨床に向けて研究を加速させている。

研究意義と将来展望は以下の通り。

  • 輸血医療の革新
  • これまでドナー依存だった血小板供給に、細胞製剤という新しい選択肢を提供。
  • 動物福祉への配慮
  • 手術で廃棄されていた脂肪を再活用し、無侵襲・無害な再生医療を推進。
  • 持続可能な獣医療モデル
  • 安定供給・保存性・安全性を兼ね備えた血小板製剤の社会実装を目指す。
  • One Healthの視点
  • 犬医療から始まる再生医療技術を、他動物種や将来的なヒト応用へと還元・展開つ可能性が期待される。