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- 佐藤衆介 著
- 2024年8月・東京大学出版会発行
- 定価2,970円(本体2,700円+税)
- 詳細:https://www.utp.or.jp/book/b10085821.html
本書には動物の福祉とは何か、そして日本独自ともいえる動物愛護とは何かが明確に解説してあり、アニマルウェルフェアの哲学を学ぶことができる。
そして、動物福祉を考える上で、どのようなことを配慮する必要があるのか、応用動物行動学等の研究の積み重ねがまとめられており、アニマルウェルフェアを実践する上での必要なことを具体的に学ぶことができる。
日本の家畜においてはアニマルウェルフェアの研究は牛に偏在していることや、アニマルウェルフェアは最終的には畜産物の価格に関わることになるが、日本人はそのことに対する理解がまだまだ進んでいない現状も述べられる。
日本人として愛護、福祉、倫理への向き合い方をアニマルウェルフェアを通じて整理できる1冊である。
またアニマルウェルフェアに関する用語について「こういう経緯で、このように使用されるようになった」という解説もあり勉強になる。
アニマルウェルフェアのアウトラインを理解するのに役立つのではないかと思い、最後に詳細な目次を示しておく。
第1章 アニマルウェルフェアとはなにか
- 1.1 ブランベル・レポートの視座
- 1.2 欧州の視座
- 1.3 世界動物保健機関(WOAH国際獣疫事務局[旧OIE])の視座
- 1.4 日本の視座
第2章 アニマルウェルフェアの発展
- 2.1 アニマルウェルフェア改善の歴史-5つのエポック
- (1)発端-1965年のブランベル・レポート
- (2)具体化-1992年の「5つの自由」モデルの提案
- (3)ポスト「5つの自由」-2009年の英国畜産動物福祉審議会報告書
- (4)国際化-2004年からの国際獣疫事務局によるアニマルウェルフェア規約の作成
- (5)SDGsとの統合-2016年以降のアニマルウェルフェア議論
- 2.2 各国の取り組み
- (1)欧州の取り組み
- (2)米国の取り組み
- (3)中国の取り組み
- (4)日本の取り組み
第3章 日本のアニマルウェルフェア改善倫理
- 3.1 功利主義からの脱却
- 3.2 テロス哲学の日本的解釈
- 3.3 「5つの自由」モデル、「5つの領域(ドメイン)」モデルからマトリックス・モデルへ
- (1)「5つの自由」モデル
- (2)「5つの領域(ドメイン)」モデルから
- (3)その他のアニマルウェルフェア評価法
- (4)日本型評価法の提案-マトリックス・モデル
第4章 考慮すべき行動とはなにか
- 4.1 自然な行動とはなにか
- 4.2 正常な行動とはなにか
- 4.3 内的に動機づけられた行動とはなにか
- 4.4 身体的および心的状態へ影響する行動とはなにか
第5章 栄養環境と行動的問題
- 5.1 摂食における競争の緩和
- 5.2 摂食行動のプログラム
- (1)欲求行動充足の重要性
- (2)完了行動充足の重要性
- 5.3 行動抑制の結果としての常同行動
- 5.4 飼料エンリッチメントの実利性
第6章 物質環境と行動的問題
- 6.1 大気環境が行動におよぼす影響
- 6.2 光環境が行動におよぼす影響
- 6.3 音環境が行動におよぼす影響
- 6.4 生活空間が行動におよぼす影響
- 6.5 その他のエンリッチメント
- (1)物質的エリッチメント
- (2)感覚エンリッチメント
第7章 社会的環境と行動的問題
- 7.1 闘争緩和の方策
- (1)トリプトファン給与による攻撃性の制御
- (2)フェロモンによる攻撃性の制御
- (3)遺伝的改良による攻撃行動の制御
- 7.2 親和行動を含む向社会行動の促進
- 7.3 性行動に関する行動的問題
- 7.4 母子関係構築の方法と意義
第8章 ヒトとの関係と行動的問題
- 8.1 ヒトと動物との親和関係構築の方法と意義
- (1)動物の遺伝的個性の重要性
- (2)取り扱いが動物の情動におよぼす影響
- (3)動物の取り扱いを左右するヒト側の要因
- 8.2 動物の情動評価法
- (1)苦痛評価法の開発-グリマス・スケール
- (2)快情動評価法の開発
- 8.3 ネガティブ情動をもたらす断節の評価と回避の可能性
第9章 アニマルウェルフェア推進への課題
- 9.1 動物への愛着形成とアニマルウェルフェア教育の重要性
- (1)畜産動物への愛着の形成
- (2)動物への配慮内容の深化
- (3)アニマルウェルフェア教育法の開発
- 9.2 経済的支援の重要性-補助金、適正価格
- (1)生産者の利得
- (2)消費者の利得
- (3)市民の利得
- (4)アニマルウェルフェア補助金
- (5)適正価格(フェアトレード)
- 9.3 応用動物行動学研究推進とその成果情報公開の重要性