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日本家畜衛生学会は、2024年12月13日、家畜衛生フォーラム2024を開催した。設立から50年を迎え、今回のテーマは「家畜衛生の過去、現在そして未来2024」。
理事長の河合一洋先生(麻布大学)は冒頭の挨拶で、このフォーラムが現在の問題の解決の糸口になればと述べた。次いで、企画趣旨の説明を行った理事の上塚浩司先生(茨城大学)は、この企画は40周年と同じテーマであるが、この10年、新型コロナウイルス感染症の流行、豚熱や高病原性鳥インフルエンザの流行、家畜伝染病予防法の改正、農場HACCPの導入、スマート農業の発展、自然災害の多発などの変化があり、家畜衛生、環境衛生の歴史を振り返り、現状を踏まえ、将来展望ができればと述べた。
講演内容とテーマは以下の通り。座長は日本獣医生命科学大学の田中良和先生(日本家畜衛生学会理事)と一般財団法人日本生物科学研究所の杉浦勝明先生(日本家畜衛生学会理事)が務めた。
- 日本家畜衛生学会50年の歩み
- 河合一洋先生(麻布大学、日本家畜衛生学会理事長)
- 家畜衛生50年の歩み~牛疾病-牛疾病の発生状況と疾病制御の課題
- 佐藤 繁先生(岩手大学名誉教授)
- 家畜衛生50年の歩み~馬疾病
- 丹羽秀和先生(日本中央競馬会 競走馬総合研究所)
- 家畜衛生50年の歩み~豚疾病-豚疾病の衛生管理
- 末吉益雄先生(鹿児島大学、日本家畜衛生学会理事)
- 家畜衛生50年の歩み~鶏疾病
- 白田一敏先生(株式会社 PPQC研究所)
- 家畜衛生50年の歩み~畜産環境問題
- 押田敏雄先生(麻布大学名誉教授、日本家畜衛生学会名誉会員)
- 家畜衛生50年の歩み~スマート畜産の現状と未来(IoT、AI)」
- 堀北哲也先生(日本大学)
まず河合一洋先生は、日本家畜衛生学会の50年を振り返った。同学会は1974年に家畜衛生研究会として発足し、2002年に家畜衛生学会に改組された。歴代の会長・理事長は、細谷英夫先生、内田和夫先生、野口一郎先生、鎌田信一先生、押田敏雄先生、白井淳資先生が務め、現在の河合一洋先生に引き継がれている。
次いで、佐藤 繁先生は牛の飼育状況の変遷、非感染症の発生状況の変遷、家畜診療等技術全国研究集会の発表演題の内容を解析し、その傾向と背景を紹介した。そして将来の課題として、診断・治療・予防に関する画期的手法の開発、家畜群の健康維持と生産性向上のためのIcT・AIの活用、遺伝的能力の高い乳牛におけるOPU-IVFとETの普及・応用、高泌乳牛の管理や疾病制御・低減、ゲノム情報を活用したカーボンニュートラルやメタンガス低減のための理論と手法の開発などをあげた。そして、農家のICT導入等を指導できる獣医師を育てるための教育が必要とも述べた。
丹羽秀和先生は、日本における家畜としての馬の歴史、馬伝染性貧血の清浄化や馬インフルエンザの流行、馬鼻肺炎の感染制御など、感染症の変遷を語った。また東京2020年オリンピック・パラリンピック競技大会時の馬競技のために日本にやってきた馬たちの検疫のことも話題とした。馬ピロプラズマ病が確認されたが、感染拡大もなく、発症馬も無事に帰国した。
末吉益雄先生は、まず豚舎がビルとなっている中国の養豚施設を紹介した。次いで、豚の感染症-口蹄疫、豚熱、豚繁殖呼吸障害症候群(PRRS)、豚サーコウイルス関連疾病、浮腫病、豚流行性下痢、豚増殖性腸症、アフリカ豚熱の解説を行った。そのなかで、PRRSについて「養豚界が一番なんとかしたい病気」と述べた。他疾患との複合感染、ワクチンテイクの影響、ヨーロッパ株の出現など制御を難しくしている問題がある。
白田一敏先生は、原因を究明し対策をとることでサルモネラ食中毒を激減させてきた過程についてまず述べ、高病原性鳥インフルエンザと、ワクモについて解説した。ウイルスの侵入経路を確定するのは難しいが、死亡した鶏等の場所や環境が判断材料となる。発生農場では、周辺に渡り鳥が多い、養鶏密集地帯、衛生管理状況の不備などがみられる。農場周辺に水辺がなく、管理もなされている場合に、カラスの糞にも目を向けるべきとのこと。屋根の糞が吸気により鶏舎内に入ることもあるとのこと。白田先生は「食料・農業・農村政策審議会 家畜衛生部会家きん疾病小委員会」の委員でもあり、国にもそのことを提言している。ワクモについては、その制御における「エグゾルト」の有用性を述べた。
押田敏雄先生は、畜産環境問題とは排せつ物に起因するものだとし、苦情の変遷について解説し、苦情の半分は悪臭であると述べた。「家畜ふん尿」のとらえ方、すなわち「堆肥」「家畜排せつ物」「廃棄物」と「家畜ふん尿」の位置づけを分かりやすく解説し、「家畜排せつ物」を利用価値の高い「家畜排せつ物」に変換し、その利用を促進することが、畜産環境対策の基本と述べた。
堀北哲也先生は、スマート畜産の現状を知る上で、農林水産省の「スマート技術農業カタログ」が有用であると紹介した。さらに獣医療におけるIoMTによる遠隔診療について解説した。遠隔診療は畜産農家の点在化や獣医師不足、家畜診療所や家畜保健衛生所等の統廃合が進む現況から、1つの手段として整えておくべきだろうと述べた。ただし、スマート畜産において、smartなシステムの背後にある仕組みを理解し、人間らしい考察ができるようになるべきだろうと述べた。また、今回の発表要旨をAIのGeminiでタイトルを構築させ、さらに作成されたタイトルを元にしたAIのGammaによるスライドを紹介した。
総合討論では、鶏のサルモネラ対策における飼料の衛生について、獣医師としてどれほど飼料会社への介入ができるのか、食用としての馬の現状と将来、AIで獣医学教育ができてしまうのか、ミニ豚の感染症対策をどのようにしていくのか、学会での発表数が減っていることなど様々な問題が討議され盛り上がった。また座長の杉浦勝明先生が「地球温暖化の観点から畜産への風当りが強かったり、食肉への忌避があるなかでの畜産の未来はどうなるのか」の問いかけに対して、末吉益雄先生は「国土を守る、山を守るという視点で、家族農業を支援し増やしていくという考えもあるのではないか」と答えた。