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- 梶 光一 著
- A5判・272ページ
- 定価4,620円(本体4,200円+税)
- 2023年5月・東京大学出版会発行
- 詳細:https://www.utp.or.jp/book/b10030788.html
本書は日本の野生動物管理学の構築を牽引してきた東京農工大学名誉教授の梶 光一先生の集大成ともいえる1冊である。ご自身が取り組まれてきたこと、すなわち日本の野生動物管理の歩みがまとめられている。
章の構成は次のようになっている。
- 第1章 有蹄類の爆発的増加-個体群動態をめぐる議論
- 第2章 個体群動態-洞爺湖中島のシカ
- 第3章 シカ管理-知床・イエローストーン・ノルウェー
- 第4章 定点観測と長期モニタリング-個体群変動のプロセスとメカニズム
- 第5章 フィードバック管理-順応的管理へ向けて
- 第6章 世界の野生動物管理の歴史-自然を管理するということ
- 第7章 日本の野生動物管理の歴史-保護から管理へ
- 第8章 個体群管理から生態系管理研究へ-ランドスケープの視点
- 第9章 野生動物管理システム研究-研究経営論
- 第10章 人口縮小時代の野生動物管理-持続可能な地域のために
- 第11章 野生動物はだれのものか-野生動物管理とステークホルダー
- 第12章 大学の野生動物管理専門教育-実現に向けた取り組み
- 第13章 野生動物管理の日本モデル
第1章と第2章は野生動物管理に至るまでの導入部といえる。梶先生の生い立ちからはじまり、北海道大学時代の個体群動態の研究のことが詳述されている。この文を書いている松本も学生時代(遠い昔!)に、洞爺湖中島に梶先生を訪ね、シカの調査のイロハの教えを乞うたことがあり、当時のことを思い出しつつ読み進めた。
第3章は「シカ管理」の話であり、梶先生の真骨頂ともいえる分野であろう。洞爺湖中島と知床岬という2調査地の話題から入り、海外事例と展開し、野生動物の管理の話を深めていく。2調査地の話では、その成果のみならず、調査自体に辿り着くまでの苦労話、調査研究への向き合い方など、楽しく読め、特にこれから研究者を目指すものには参考になろう。
そして話は野生動物管理学研究の変遷や世界の動向などへと展開していく。野生動物管理がどのような歩みを経てきたか、行政にどう理解させ取り込ませてきたのかなどがよく分かる。生息数を把握することはとても難しいことであるが、研究者は「数すら分からないのか」と批判を受ける。そのような話も盛り込まれている。
第10章では過疎地の2つの好事例を人口縮小時代の野生動物管理のモデルとして紹介している。すでにうまく行っている地域があるのは、心強いものである。そして野生動物管理の考え方や教育と話は進み、最後の章での日本モデルの構築への提言へとつながる。
野生動物を管理していかざるを得ないことは明白であるが、問題はまだまだ山積しているし、新たな課題もでてくるであろう。しかし、上手くいった先には人にとってよりよい暮らしが得られるのではないか。それは管理の成果を享受していく人間のモラルや利活用への成熟度も相まってであろう。本書に書かれたことを大いに生かして、よりよい野生動物管理を実現していかなければならない。
(記:松本 晶)