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■哺乳類胚における腱と筋の相互作用を解明 明治大学

2023-08-01 14:54 | 前の記事 | 次の記事

(図1)骨格筋と腱は対になって働くが、胚発生では異なる場所に起源がある (上)胚発生における筋腱の移動と結合 (下)マウス胚前肢のMyh3(筋繊維)とTnmd(腱)のin situ hybridization

(図2)マウス胚前肢の骨格筋の免疫染色 腱が減少したScx-DTAマウス(右)では骨格筋(青)の形態や結合位置が異常に

明治大学農学部生命科学科動物再生システム学研究室(尾野雄大、Saundra Schlesinger 博士研究員、乾 雅史 准教授)と東京医科歯科大学、広島大学、大分大学等の共同研究グループは、2023年5月30日、哺乳類胚における腱と筋の相互作用を解明したことを発表した。哺乳類の骨格筋が正しく形作られる仕組みについての研究で、腱組織が減少したマウス胚では全身の筋肉の形や結合位置が異常を示したことから、骨格筋の形態形成には腱細胞との相互作用が必要不可欠であることが明らかになった。

研究成果は、2023年5月29日に米国の科学誌「Development」誌に掲載された。

プレスリリース発表された内容は以下の通り。

私たちの全身には600を超える骨格筋が存在します。骨格筋は様々な形や大きさのものがあり、その収縮によって生じた力を、腱を通じて骨格に伝えることで、姿勢の維持や複雑な身体運動を実現しています。

生後の運動器(骨格筋-腱-骨)の構造を見ると、骨格筋と腱が対になって働くことは当然と感じられますが、胚発生では四肢の骨格筋は胚の体節、腱・骨は側板中胚葉から形成されるため、四肢の骨格筋と腱・骨は異なる場所から移動してきた後に結合する必要があります(図1)。多数存在する骨格筋と腱・骨が間違いなく結合するためには、互いに結合を誘導するやり取りが必要だと考えられますが、これまでに哺乳類の骨格筋と腱の相互作用については十分に明らかにされてきませんでした。

本研究では骨格筋の結合パートナーである腱は骨格筋の形や結合場所を制御する役割があると仮定し、発生中のマウス胚においてScx遺伝子を発現する細胞(主に腱靭帯細胞)が細胞死を起こすマウスモデル(Scx-DTAマウス)を作成し、この仮説を検証しました。その結果、Scx-DTAマウスでは、四肢の筋肉や横隔膜など全身の骨格筋の形態や結合パターンが大きく変化することを見出しました(図2)。さらにこのマウスでは骨格筋が一旦形や結合を作った後でそれらを変化させたことが示唆され、これまでに考えられていたよりも骨格筋の形態はフレキシブルに変化しうる可能性が示されました。

以上の結果から、骨格筋は腱細胞との相互作用によって形や結合位置を決定していることが示唆されました。この仕組みは個体間で再現性良く(失敗せずに)運動器を形作るために重要であると考えられます。今後この相互作用の分子的実態が明らかになれば、再生医療や種間で異なる骨格筋形態を形成する仕組みの解明につながると期待されます。