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■粘膜ワクチンの共同開発 塩野義製薬と千葉大学病院

2022-02-28 17:19 | 前の記事 | 次の記事

注射型ワクチンと粘膜ワクチン

カチオン化ナノゲルの利用

千葉大学病院は、2022年2月10日、塩野義製薬株式会社と粘膜免疫誘導型ワクチン(以下、粘膜ワクチン)の研究開発を産学共同で推進する共同研究部門「ヒト粘膜ワクチン学部門」を4月1日に設置すると発表した。ワクチンによる免疫誘導メカニズムの理解促進、臨床応用の促進、人材育成に取り組む。

粘膜に防御免疫を効果的に誘導できる粘膜ワクチンの研究開発に取り組み、注射型ワクチンが有する「発症や重症化を防ぐ効果」に加え、新たに「病原体の侵入そのものを防ぐ効果」も有するワクチンの開発を目指す。

鼻から始まる呼吸器の粘膜面には、樹状細胞などの免疫細胞が各種存在し、病原体が侵入しようとすると免疫が作動して阻止する仕組みがある。鼻から抗原を投与することにより、注射型と同じようにIgG抗体を血清中に確実に誘導するとともに、粘膜面に作用する分泌型IgA抗体も誘導できることが、これまでの基礎研究でわかってきた。

「ヒト粘膜ワクチン学部門」は、粘膜ワクチンの中でも、鼻から噴霧する「経鼻ワクチン」の開発を目指す。「経鼻ワクチン」は、鼻から噴霧するため、注射型に比べて精神的不安や疼痛に対する恐怖感などの軽減につながる。また、投与が簡便なため、ワクチン接種を行う医療者の確保が不要となる可能性がある。一方で、以下のような課題もある。

  • 鼻汁(分解酵素を含む)など粘液がたくさん排出される
  • 解剖学的に鼻腔は脳に近接している

こうした課題の克服のため、「カチオン化ナノゲル」内に封入したワクチン抗原を鼻から投与して粘膜面に届ける「噴霧型経鼻ワクチン」の開発を目指す。

カチオン化ナノゲル内に封入されたワクチン抗原は、噴霧投与後、粘膜面に長時間とどまり、持続的に放出される。動物実験ではワクチン抗原は12時間程粘膜にとどまり、効率的にIgA抗体を誘導し、その後病原体を呼吸器粘膜に暴露しても肺で増殖しなかった。一方で、ワクチン非接種群では肺で病原体が増殖し、死に至った。これらの結果は経鼻ワクチンの有用性を強く示唆している。

千葉大学未来医療教育研究機構の清野 宏 特任教授が部門長に就任し、千葉大学(22名)、塩野義製薬(複数名)で研究に取り組む。

同部門の設置期間は5年を予定。まず、新型コロナやインフルエンザの経鼻ワクチンの研究開発を実施し、その後、肺炎球菌などその他のワクチン開発を目指しながら、ワクチン学人材育成も進める。