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■第33回日本動物児童文学賞入賞作品発表

2021-10-14 13:41 | 前の記事 | 次の記事

公益社団法人日本獣医師会は、2021年9月29日、第33回日本動物児童文学賞入賞作品を発表した。受賞作品、受賞者および受賞理由は以下の通り。

【日本動物児童文学大賞】

  • 「おまんじゅうとクッキーと、わたし」みたにさくら(千葉県)
  •  夢の中に亡くなったひいおじいちゃんが登場するところから始まるファンタジックな物語ながらリアリティがあり、野生動物との共生や犬の譲渡活動、終生飼養に係る課題など、複数の問題提起が物語の中にうまく盛り込まれている。異なる問題を見事に解決していく展開には胸が躍り、筆の力を感じた。読みやすい文体で、全体的なストーリーも非常に練られており、作品の完成度が高く、本賞の大賞にふさわしい作品である。

【日本動物児童文学優秀賞】

  • 「ごめんね、ジュン」感王寺美智子(福岡県)
  •  犬を飼いたい娘と反対する母の物語を通して、人と動物の絆や適正飼養の意義、命の大切さについて、強く訴える作品である。母が持つ犬とのつらい過去を知った娘が、その心境を理解し母をいたわる優しさも良く描かれている。母の過去の描かれ方にやや大仰な印象が残るが、身勝手に生き物と接することがどれほど残酷であるのかということを教えてくれるとともに、動物と向き合う家族の心の動きが温かく描かれた素直に感動できる作品である。
  • 「声が聞こえる」伊東葎花(茨城県)
  •  草むらで震えていたところを父親に拾われた子猫と、その猫が10歳の時に生まれた娘。そんな猫と少女の交流を軸に、子猫が家族になるきっかけ作りや喧嘩の仲裁などのエピソードが散りばめられた物語である。拾った子猫を大切な家族の一員として最後まで看取った様子と、その後の新しい命との出会いが軽やかな心理描写とともによく描かれており、物語全体に流れる猫に対する愛情を深く感じる。全体的に落ち着いた表現で物語として完成度の高い感動的な作品である。

【日本動物児童文学奨励賞】

  • 「ゆみこさんとみーこ」工藤直子(茨城県)
  •  野良猫と主人公の人生、そして家族の成長が重なるとても良い物語である。細かな描写がとても生き生きとしており、主人公に誠実さを感じた点もよい。動物を飼育する際に、その動物の立場に身を置くことの大切さを訴える、人情味あふれた作品である。
  • 「ハウス」北岡克子(大阪府)
  •  心に傷を持つ少年が犬との関係性を通して成長する物語である。文章構成がよく、短文でユーモアもあり、犬と人との愛情と絆が感じられる作品である。犬の健気さ、弟の葛藤、兄の優しさなど、家族の心情もうまく表現されているが、結末にかけて、やや性急な印象となった点が残念に思われた。
  • 「セナとベアリーのおはなし」渡邊夏葉(岐阜県)
  •  吃音のために人と交流することが苦手だった主人公が、犬を飼い始めたことをきっかけに、コミュニケーションをとることの大切さを知って成長していく物語である。成長過程がよく描かれており、犬を飼う上で必要なことなどもわかりやすくまとめられている。多様性、コミュニケーション、人と動物との関係で大切なことを教えてくれる作品だが、児童を対象とするには、文章がやや難解なのが惜しい作品である。
  • 「三人の子猫」卯野雅文(北海道)
  •  話の展開が全体的に唐突な印象は否めない。しかしながら、河童の兄弟を主人公とするファンタジー性と、イメージしやすい情景描写、読みやすい文体は児童文学作品として読み手を引き込む魅力がある。猫に対する当初の「かわいい」という主観的視点から、「猫にとって何がよいか」を考えている客観的視点に変わっていく過程が上手く描かれており、本文学賞のテーマにふさわしい作品である。