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WSAVA、2020年4月29日発信
翻訳:WSAVA the Translation Committee メンバー 安田隼也(獣医師)
3月のアップデート以後、テキサス州でSARS-CoV-2に対する抗体を有する犬や猫の事例が、新型コロナウイルスに感染した人が飼っているペットに対する積極的調査によって見つかりました。
動物におけるSARS-CoV-2の事例(アメリカ):https://www.aphis.usda.gov/aphis/dashboards/tableau/sars-dashboard?utm_source=hs_email&utm_medium=email&_hsenc=p2ANqtz-8uh6WWgFBSvIfvHzIXdpiJGgVmKbJ9efoBoMSUHQr3DpmMPZpXRNe1uSnipp9mnW2NKa4x
しかしながら、3月以降、新たにRT-PCRやウイルス分離によって新型コロナウイルスと分かった犬や猫の事例は国際獣疫事務局(OIE)の報告にはありませんでした。
OIEのウェブサイト:新型コロナウイルスの発生に備える(https://www.oie.int/en/what-we-offer/emergency-and-resilience/covid-19/)
先月(訳註.2021年3月)のSARS-CoV-2に関する世界中の議論の中心は人に対するワクチン接種の取り組みについてでした。しかしながら、3月31日に、ロシアがペットに対する初の新型コロナウイルスのワクチンを承認したと発表しました。
(訳註.この発表記事はOIEのHPで更新されている)
Carnivac-Covと名付けられたそのワクチンは、犬、猫、ミンク、そのほかの動物で臨床試験が行われました。ワクチンの開発者によると、検査した動物の全てからコロナウイルスに対する抗体が見つけられ、これによりワクチンは無害で高い免疫原性をもつと結論付けられた、とのことでした。ワクチンの開発に携わった政府機関は数カ月以内に利用可能になるだろうと言っています。
ロシアのFederal Service for Veterinary Supervisionによると、ペットに対するワクチンは、より感染力の強いウイルスの拡散を防ぐための保険として必要になるだろうとのことです。また、もし人から動物に新型コロナウイルスが広まった場合や、最悪のケースとしては、動物内で変異が起こり人にとってより病原性の強い状態になったうえで感染するような事態を考え、公衆衛生対策の一環として動物用のワクチンを開発したとのことです。
ロシアからの発表や、犬および猫の新型コロナウイルスワクチンが必要になるかもしれないという内容の1月のニューヨークポストで発表された記事(https://nypost.com/2021/01/25/cats-dogs-may-need-covid-vaccine-to-curb-spread-scientists/?utm_source=hs_email&utm_medium=email&_hsenc=p2ANqtz-8uh6WWgFBSvIfvHzIXdpiJGgVmKbJ9efoBoMSUHQr3DpmMPZpXRNe1uSnipp9mnW2NKa4x)によって、新型コロナウイルスのワクチンをペットに受けさせる方が良いのか、ワクチンは安全か、といった議論が世界中のペットの飼い主の間で沸き起こりました。
世界小動物獣医師会(WSAVA) One Health and Scientific Advisory Committeesは新型コロナウイルスのワクチンを犬や猫に接種するにあたっては、いくつかの点を考慮しなければならないと考えています。重要となる2つの点は以下の通りです。
- 動物から人に感染するリスクを減らすこと(同様のものに狂犬病があります)
- ワクチン接種を行ったペットの症状が重篤化する危険性を軽減すること
新型コロナウイルスは、犬や猫を含めた数種類の動物に感染することは知られているものの、人が主な感染源です。アメリカ疾病予防センター(CDC)によると、現在のところペットが人に対して新型コロナウイルスを拡散するために重要な役割を担っているという証拠はありません。そしてペットが人に新型コロナウイルス感染症をひろめるリスクは低いです。犬や猫が新型コロナウイルスを人に感染させたことを証明する事例はありません。そのため、現時点では、公衆衛生の観点から犬や猫に新型コロナウイルスのワクチンを接種する必要性はありません。
これも強調したい点になりますが、犬や猫は新型コロナウイルスに感染した人からうつされることはありますが、その症状は不顕性か軽微であり、自然に治癒するものです。さらに、現在のところ新型コロナウイルスによって死亡した犬や猫はいません。そのため、犬や猫の新型コロナウイルスの臨床症状をワクチンによって軽減することには疑問符が付きます。ワクチン接種は重要であり獣医療の根幹を成すものであり、個別医療として位置づけ、個々のペットに対しては個体ごとにリスクと利益を天秤にかけ、必要性を考慮した個別対応が必要となります。ワクチン接種は必要に応じて行われるべきであって、犬や猫に対して不必要なワクチン抗原を投与することを減らさなければなりません。
Carnivac-Covワクチンの開発者が犬や猫で新型コロナウイルスの抗体を誘導する製品を作ったことは称賛に値します。しかし、WSAVAはこのワクチンがペットとして飼われている動物に対して使用される前にさらなる情報が必要と考えています。特に、ワクチン接種によって症状が軽減されるか、生きた新型コロナウイルスが曝露後に排泄されるのか、そうであれば、免疫持続期間はどれくらいなのか、についてです。
現時点では、ペットの飼い主は新型コロナウイルスのワクチンをうけさせる必要性について考えなくてよいという考えは変わっていません。犬や猫の新型コロナウイルスへの感染は殆どの場合は感染した人に由来しているので、ペットを守る最良の方法は飼い主がワクチン接種をすることによりペットの感染リスクを減らすことです。
Dr.Lappinは現在WSAVAのOne HealthのChairで、WSAVAの新型コロナウイルス評議会のアメリカでの代表です。4月8日には、Trupanion Medical Insurance for Petsが新型コロナウイルスの評議会を再び開き、その対策の一助となるように最新のウェビナーシリーズを開催しました。再生者数は記事作成時点で93万人にのぼりました。演者はCDC/One Health Deputy DirectorのDr.Collin Basler、University of GuelphのScott Weese教授、Trupanion(https://trupanion.com/webinars/covid-council)のChief Veterinary OfficerでMightyVet(https://www.facebook.com/mightyvet/)の創業者であるSteve Weinrauch、Not One More Vetの代表であるDr.Carrie Jurney、そしてDr.Lappinでした。
ウェビナーへはこちらから:https://www.facebook.com/Trupanion/videos/833311627284923/
このウェビナーは生中継で配信され、現在も視聴できます。質疑は直接飼い主となされ、英語で行われました。演者たちは新型コロナウイルスに対するワクチンが現在や将来的に必要性になるかについても触れました。
質問やご意見があれば受け付けます。ご自愛ください!
- Professor Mary Marcondes, DVM, MSc, PHD
- Professor (retired) of Small Animal Internal Medicine and Infectious Diseases-School of Veterinary Medicine, São Paulo State University, Brasil Co-chair of the WSAVA Scientific Committee
- Michael R.Lappin, DVM, PhD, DACVIM (Internal Medicine), Colorado State University,
- Chair of the WSAVA One Health Committee
WSAVA による新型コロナウイルス情報サイトはこちらから(一部日本語)