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■イノシシの豚コレラウイルス感染の抑制 専門家が提言

2019-12-05 16:26 | 前の記事 | 次の記事

「イノシシにおける豚コレラウイルスの感染を効果的に抑制するための学術検討会」が、2019年11月13日麻布大学で行われ、12月2日に検討会の概要と提言が発表された。

この検討会を主催したのは浅井鉄夫先生(岐阜大学)、平田滋樹先生(農研機構中央農業研究センター)、迫田義博先生(北海道大学)の3名。国内外の専門家、国・自治体関係者、関連団体関係者66名が集まり討議が行われた。海外からもイノシシへのベイトワクチンに対する提言を行っているDr. Ad Vosなど以下の6名が参加した(敬称略)。

  • Ad Vos (Ceva Santé Animale, France)
  • Sandra Blome (Federal Research Institute for Animal Health, Germany)
  • Jim Beasley (University of Georgia, USA)
  • Jose Francisco Lima Barbero (University of Castilla-La Mancha, Spain)
  • Richard B. Chipman(USDA, APHIS, Wildlife Services, USA)
  • Michael Hemprich (Ceva Santé Animale, France)

発表された概要と提言は以下の通り。

・General policy for the control of classical swine fever in wild boar

イノシシにおける豚コレラ(CSF)ウイルス感染の制御において、地理的要因を考慮した統合的な感染症対策の1つとして経口ワクチン散布を含めるべきである。この統合的なイノシシにおける対策には、個体数調整、関係者におけるバイオセキュリティーの徹底、一般市民への教育や啓発を含める必要がある。また養豚場から野生動物にウイルスを拡散させないためにも、CSF発生時の養豚場におけるウイルスの封じ込めを引き続き徹底する必要がある。

・Information sharing

専門家と行政担当者は、CSFウイルスのブタおよびイノシシへの感染の問題について国民全体の理解を醸成しなければならない。

行政機関は、イノシシにおけるCSFウイルス感染の制御方針を明確にし、専門家と協力して感染症制御の重要性と利点に関する情報を関係者および国民に提供しなければならない。

行政機関は、感染動物の生息地の土地所有者や土地利用者を含むCSF問題に関係するすべての関係者へ情報を定期的に提供しなければならない。

CSF問題に関する多方面の有識者、行政担当者および関係機関が集まり、この問題を解決するための方策や研究に関する情報を共有する場を定期的に設け、透明性の高い意思疎通を図る必要がある。

・Methodology of oral vaccination

経口ワクチンの実施にあたっては、下記に示す基本理念や日本特有の課題を考慮して、従来のドイツ式プロトコールから我が国の状況に即した日本式プロトコールに改良する必要がある。

経口ワクチンの散布は、感染動物が生息する地域を含め、流行を減らし感染症を排除したい地域を対象に均一に実施する必要がある。

更なるウイルスの拡散を防ぐための経口ワクチンベルトの設定には、豚およびイノシシにおける感染が報告されていない地域でのサーベイランスの強化が必要である。

経口ワクチンベルトはイノシシにおけるウイルスの感染状況、イノシシの長距離移動や行動圏などの生態学的情報および生息地や地形を考慮して設定する必要がある。またその幅は、最低40~50km必要と考えられる。

ワクチン効果の均一化を図るために、経口ワクチン散布の密度を高めたり、散布回数を減らすなどの変更も必要となる。また費用対効果を検証するためにも、さまざまな散布方法に関連する費用に関する追加的な研究や考証を進める必要がある。

山間部やその他のアクセスの悪い場所は、飛行機やヘリコプターによる散布も含め、新たな散布方法の導入を検討しなければならない。その場合、散布数に対してイノシシが食べる効率が下がることを考慮に入れ、餌の数を調整する必要がある。

・Capture of wild boar and biosecurity

日本では狩猟に加え、有害鳥獣捕獲等の許可捕獲により通年イノシシを捕獲することができる。また銃に加え、わなによる捕獲も実施されている。イノシシにおけるウイルス感染による被害を軽減するために、捕獲を継続する必要がある。

幼獣はウイルスに対する能動免疫がなく、新たな感染源となる。よってウイルス感染状況の把握と経口ワクチンの効果判定の目的も含め、親子集団を捕獲する必要がある。ただし、国内では箱わななどにより幼獣が効率的に捕獲される傾向があるので、個体数調整の効果が期待できる成獣の捕獲にも努める必要がある。また、イノシシの群における集団の構成を考慮し、季節ごとに管理戦略を変えることも有効である。

捕獲および斃死個体の処理や経口ワクチン散布にかかる一連の作業におけるバイオセキュリティーの改善がウイルスの拡散防止に必須である。