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■もっと働きやすく、生きやすく。畜ガールズがシンポジウムを開催

2021-01-05 18:26 | 前の記事 | 次の記事

宮崎大学、産業動物に興味のある女性の会(畜ガールズ)は、2020年12月13日、オンラインシンポジウム「ここから始める獣医師の働き方改革~畜ガールズが描く未来~」を開催した。

司会進行は、畜ガールズ事務局 上村涼子先生(宮崎大学)。畜ガールズ会長の谷 千賀子先生(宮崎大学医学部)が開催の挨拶を述べ、「産業動物分野で働く女性獣医師は増えつつあるが、40代以上の管理職はわずか。その原因は、男性主体で作られた職場環境や、育児、介護で女性の負担が大きいことが背景にある。畜ガールズは、メンタルや職場環境の面から、目の前の壁を取り除こうと取り組んできたが、壁の向こうは思うような世界ではなく、新たな道の整備が必要だと分かってきた。新旧の価値観が頭のなかでもやもやとしている状態であるが、本シンポジウムを通してそれをすっきりさせることができれば」とこのシンポジウムに期待をよせた。

最初の講演は、社会学者の上野千鶴子先生(東京大学名誉教授)による「昭和の常識、令和の非常識~女性の非伝統職を解剖する~」。女性のおかれた立場、姿勢のあり方などを歴史経緯を踏まえて以下の内容で講演された。

2018年に明るみに出た医学部の不正入試操作の背景には、医学会が女性医師が増えることに冷ややかだったという面があった。しかし、女性は医師国家試験の合格率が高い、コミュニケーション力が高い、女性医師の担当した患者は再発率が低いなど多くのデータから、医療は女性にむいた仕事といえこそすれ、女性医師が増えることの弊害は見当たらない。ケア職である獣医師も、医師と同じように女性に向いている職業と言えるのではないか。

日本の職場において女性の活躍を阻害する要因に「Aspirationのcooling down(意欲の冷却効果)」があるとの研究成果がある。女性の「成長したい」「達成したい」という意欲を、「頑張らなくても良い」「所詮…」「どうせ…」などと冷却させる言動を指し、職場の粘土層(中間管理職)のUnconscious bias(無意識の偏見)によるものが多い。このような言動を生む人を生産するのが「日本型雇用」であり、これは「終身雇用」「年功序列給与体系」「企業内組合」の3点セットから成るもので、このシステムの下では、構造的・組織的に女性が排除されることになる。

「女性の非伝統職」とは、働く女性の増加に伴って女性が新たに参入していく職種をさし、女性獣医師もその1つといえる。しかし、職種の性別隔離というのは歴史的・文化的に決まるものであり、合理的根拠はない。ただし、男性職とされていた職種が女性向けの職種と考えられるようになった時の弊害に、その職種の威信と給与が下がることが経験則としてある。

日本獣医師会のアンケート調査を見たが、「仕事上の不安や負担がある」と選択させた項目の中で、女性比率が大きかったのが「知識や経験が不足」「技術的に自信がない」「体力に自信がない」の3項目であったが、これは事実だろうか。男性は自己の能力を過大評価し、女性は自己の能力を過少評価する傾向があることが、ジェンダー研究で分かっている。したがって、この結果が現実の反映をしているとは思えない。また、同アンケートから、「妊娠・出産」「育児」を理由に離職した女性の割合が大きく、今なお獣医学教育を受けた人が離職しなければならない現状なのか、とショックを受けた。

補足:2018年10月26日に行われた日本学術会議の公開シンポジウム「医療界における男女共同参画の推進と課題~日本学術会議幹事会声明をふまえて~」の会議資料に医療界での男女の問題について詳細に記してある。

上野先生は、最後に畜ガールズの未来について、次のようにも述べた。

産業動物獣医師の女性比率が増えている今、職場が完全に男性向けにできていた時代から変化している過渡期ではないか。過渡期にはより困難なこともあるが、変化を見て取れ面白いこともある。過渡期のパイオニアとして風を起こし波を起こしてほしい(谷会長が挨拶でサーフィンにふれたことを踏まえて)。女性同士、うまくつながって連帯してもらいたい。ただ、メンターがいないとなかなか社会的に引き上げられて行かないとう事実はある。女性はメンターとして、意識的に女性をサポートしていってもらいたい。

次いで「ジェンダー規範と心の健康:最新の社会疫学研究から」のテーマで東京大学大学院医学系研究科博士課程の金森万里子先生が講演した。金森先生は共済獣医師に従事して「牛の病気は経済的だけでなく、飼養者の心身に負担がかかる」と視点を人に移し、健康と社会環境の研究を行っている。酪農・畜産が盛んな地域は自殺率が高いということを紹介し、それは「死への慣れ」や安楽死を経験した獣医師は死への恐怖が少ないのかもしれない、またそれらの地域では「男らしさ」が問われるのかもしれないと分析している。女性の自殺率もOECDで2番目に高く、心の健康は重要な課題であるという。

また動物福祉先進地はジェンダー規範が高いということがみてとれ、「動物との共生」という倫理観はジェンダー規範とつながっているかもしれないと述べた。そして、女性にも男性にもやさしい社会となってもらいたい、そろそろ性別につきまとう批判に社会全体がゆるやかになってよいのではと語った。なお、獣医師に対しては、「死への慣れがつらい」と言えることが大切であるとアドバイスした。

最後にパネルディスカッション「“その時”までに私たちがやるべき10か条」が行われた(“その時”=産業動物臨床において獣医師の半数を女性が占める時)。

パネラーは30代の女性獣医師4名。管理職となることがみえている世代でもある。

  • 中洞優佳先生 共済獣医師
  • 笹倉春美先生 共済獣医師
  • 穂永亜樹先生 産業動物獣医師を経て公務員、正規・非正規とも経験
  • 妙中友美先生 馬臨床獣医師

それぞれの先生方が、次世代の女性獣医師たちがさらに働きやすくなるために必要なことを述べていき、10では収まらず、次の12か条を提案した。

  1. 得意分野・特徴をもつ
  2. 終身雇用から脱却する
  3. 個人の希望や不満を言えるシステムを作る
  4. サービス残業ありきの長時間労働をやめる
  5. 育休や時短勤務取得者のフォローによる業務負担や残業には、相当な手当を支払う
  6. 育児や介護、本人の都合や体調に合わせて、働き方の選択肢を増やす
  7. 人事システムを構築する
  8. 職場間の差を小さくする
  9. アファーマティブ・アクションを導入する
  10. 法律や制度について理解する
  11. ハラスメントやメンタルヘルスについて考える
  12. 人の生き方の多様性について考える

ディスカッションでは、個人のライフステージの変化に対応できていない職場には人が集まらなくなる可能性がある(獣医師の働き方改善は喫緊の課題と認識すべき)、獣医師が足りないのならば他の職種に頼る(カルテの処理や請求業務などを担当する事務職員の雇用を例示)ことで、獣医師の業務負担が減り、診療に集中できる、「人事考課」を整備することは、職場と個人の目標を共有することにもなる、獣医師がメンタルヘルスを健全に保つことは職場パフォーマンスを向上させるなどの意見が出された。

司会の上村先生は、12か条を未来に発信していくとともに、今の管理職にもアクションを行ってもらいたい、過去を否定するのではなく、未来を見据えていきたいと締めくくった。

開催中にはZoomミーティングの投票機能を用いて、即時のアンケート調査が何度も行われ、参加者の意識や状況をLIVEでみてとれた。また最後は書き込まれたチャットがエンドロールで流れるという趣向もあった。

的確な補足など記事作成にご協力いただきました畜ガールズの先生方に感謝いたします(松本 晶)。